アテネの実力


おれはその全てを全力で無視して質問した。


「異世界ラブって能力なのか?」


アテネさんはコホンと咳払いすると真面目に話を続ける。


「この異世界ラブという力は、異世界での恋愛を強く引き付ける力…

 引き付けられるのは異世界人限定ですが、あなたが異世界で恋愛をすることによっ 

 て周りにいる地球人に宣伝、広報をするというイメージでしょうか…。

 分かりやすく言うと、観光大使の

 恋愛版、言うなれば異世界恋愛大使と言ったところでしょうか?」


「なるほど、おれ自身が異世界恋愛をして、異世界恋愛は素晴らしいんだぞと身をも 

 って周りの人間に宣伝…そして異世界恋愛する人間を増やしていくっていう寸法

 か。」


「はい、託せるのはもうあなたしかいません。異世界恋愛の神アテネは…

 異世界恋愛の命運は、全てあなたに賭かっているのです!

 …お願いできますか?」


心配しているアテネさん、

おれはそんな心配をよそにニヤリと笑う。


「ふっ…願ったり叶ったりだ。この素晴らしい異世界に祝福したいくらいだぜ!」


「それでは!?」


「ああ、もちろんやってやるさ!オワコン異世界恋愛をおれの手で復活させてみせ

 る!」


おれが力強く宣言すると同時に、

そそくさと何やら山のような書類を引っ張り出してくる女神、アテネ。


「ありがとうございます!では申込書と契約書、こちらとこちら、あと住民票と、

 あと未成年ですよね?そしたら親権者の同意書と…」


「…随分事務的なのね。」


「あ…大丈夫ですよ♪10分もあれば終るので、こちら!今だけオロナミンDも

 付けちゃいますんで!力も原則出したりする必要も無くて、

 契約が終ったら自動的に効果が発現します!便利でしょ!?」


「ああ…はい、そうっすね。」


おれは役所のような、勧誘セールスのような事務手続きを済ませると、

何かの魔法を掛けられ再び意識を失った。





気づくとおれはギルドのカウンターで目を覚ます。


「うっ…」



頭が痛い、昨日飲みすぎたせいで二日酔いだ。

変な夢を見たせいであまり疲れもとれていない、身体もバキバキだ。


―夢じゃありませんってば!


おれは驚いて声のした方に振り向くと、

そこには夢で見た女神アテネをデフォルメしたような、小さなぬいぐるみが喋っていた。


「あんた…まさか。」


―はい、先ほどお会いしました、異世界恋愛の女神、アテネです。


「え…でも。」


―心配しないでください。周りのものには私の姿は見えません。

 見えているのは誠さんだけです。会話も口に出さなくてもテレパシーで可能です。


いやついて来るって聞いてなかったんだけど…

まるで押し売りされた商品を無理矢理買わされたような感覚だ。

こいつかなり胡散臭いな…

他にもいろいろ言いたいことや聞きたいことは山ほどあるが…


「…まあ、とりあえず場所を移して、話はそれからだな。」


「はい、行きましょう!」


元気な声でギルドの外へと飛び出すアテネ、すると彼女はいきなり何かの呪文を唱えだし、近くでパンを咥えて歩いていたケモミミ娘が突然、不自然な動きをし始める。


「あれ、何これ身体の言うことが、誰か!誰か止めてー!」


と磁石が吸いつくような猛スピードで、おれに突進してくるパンを咥えたケモミミ娘。

そのままドシーンとぶつかられ、2人同時に吹っ飛ぶ。

そしてケモミミ娘はおれに覆いかぶさるような形で倒れんだ。


…なんか思ってたのと違う。

ただアンタが魔法使って俺にぶつけただけじゃん。


―大丈夫です!相手には見えてませんからセーフです!

 私は腐っても恋愛の神、ここからどうすれば恋愛関係に持ち込めるか

 ちゃんと講習は受けています!


なんかペラペラと教科書みたいなものをめくっている…

神様って随分マニュアル行動なんだなと思いつつ、

ちらっと横目でその教科書を見ると、


[イノシシを狩猟してプレゼント、男らしさを見せつけよう!]


「何時代の恋愛じゃい!」


おれは思わず大声を出して突っ込み、寝たままの態勢でマニュアルをバシッと叩きつける。


―何するんですか!そりゃそうですよ、これ2000年前の教科書ですもん。

 恋愛はいつの時代でも変わらないでしょ!

 大丈夫ですよ、いけます!自信もって♡


「………。」


ポンコツ女神め…

異世界恋愛が廃れたのは間違いなくコイツが原因だ…

…そう頭の中で深く理解した。

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