ニャミス



「いてて…すいません。こんな見通しの良い道でぶつかってしまって…

 お怪我はありませんか?」


ケモミミ娘は膝を抑えながらゆっくりと立ち上がる。


「いえ…大丈夫です。こちらこそ…大丈夫ですか?」


ホントにゴメン。


「私もともとドジではあるんですけど、こんなの初めてで…どうしちゃったのかな?

 アハハ、全然大丈夫です!痛っ!」


ケモミミ娘は元気さをアピールする為ぴょんぴょんと飛び跳ねると、直ぐに膝を抱えた。

すごい乳の揺れだった…ナイスバディ……じゃない!

どうやらケガをしてしまったらしい。

それを見るや否や胡散臭い神が胡散臭いことを言ってくる。


―チャンスです!ケガをした時は手当をしてあげるべし!

 ええっと…まずは…舌で患部を舐めて殺菌してください!


「できるかあ!!あほ!」


「え!?あ、すいません…」


やべっ、声に出ちまってた。気を付けないと…

まあ、でも方法論はともかく手当はするべきだろう。


「あ、ごめんね、君に言った訳じゃないんだ。それより膝大丈夫?ケガしてるよ

 ね?」


「いえいえ、このくらい日常茶飯事なので…大丈夫です。

 ほら、いつもバックに絆創膏……て、あれっ?無い…。」


汗汗、とバックやらポケットやらに手を突っ込んで探している。

どうやら彼女がおっちょこちょいであることは事実らしい。それは良いとして…


―何してるんですか!?今が絶好のチャンスですよ!

…おれの唾液で君の傷を癒してあげるよ…。

とか言って手当した後、宿屋に連れ込みそのまま一泊!

そして既成事実を作ってしまえばミッションコンプリイイィィトだと言うのに!


…おれは全力で存在しないものとしてシカトした。


「確か近くに薬局があったと思うから買ってくるよ、ちょっと待ってて。」


「いえ!そんな、私からぶつかっておいて手当まで…大丈夫です、

 自分で買いにって…あれ?お財布もない!?」


「ハハハ…、まあちょっと待っててよ。」


「すいません……。」


おれは近くの薬局まで走る、その際にも小っこいマスコットは、


―なんで、舐めないんですか!一気にお近づきになるチャンスだと言うのに!

このマニュアルに沿ってやっていれば必ず女子のハートは鷲掴みで間違いないんですよ!


…おれはしばらくこの女神と口を聞かないことにした。




―薬局で絆創膏と消毒液を買って、


 さっきのケモミミ少女のいたところまで戻る。


「すまん、少し待っただろう。」

「いえ…とんでもない。本当にありがとうございます。」


おれは彼女に背中を向けてかがみ、


「そこの井戸までおんぶするから乗ってくれ。」


と話すと、


「え?…そんなことまで、大丈夫です、歩けますから!」


「いいから、早く。」

 

周りをキョロキョロと見ながら、少し恥ずかしそうにしていると観念したのか


「……はい。」


と、身体をおれの背中に預ける。

もちろん背中に温かみのある柔らかい感触を感じた。

…このくらいはいいだろ?少しは癒しをくれ。


―いいじゃないですか、いいじゃないですか!なるほどプランB2‐Zでいきますか!

 それなら確か、教科書2847ページに……


おれは井戸に到着すると彼女を背中から降ろし、まず患部を水で洗い流す。


「いたっ……。」


「しみるよな…ちょっとだけ我慢してくれ。」


その後、水気をふき取り、消毒して絆創膏を貼る。


「よし、最後に…」


「?」


「痛いの痛いの飛んでけ~!」


おれは患部に手を当て、痛みが無くなるようにその手を放り投げる。

キョトンとした彼女におれは思わず恥ずかしくなってしまい、慌てて説明をする。


「いや、これは人間界に昔からあるおまじないみたいなもんで…魔法ではないんだけ

 ど、えーと…まあ、良くなるようにお願いする…願掛けみたいなもんだ。」


それを聞いた彼女は初めて少しだけ笑みがこぼれた。


「そうなんですか、素敵なおまじないですね!

 そういえばまだお名前を伺ってなかった。私の名前はニャミス。

 ネコ人族の獣人です。」


…そういえば、さっきから顔をあまり見ていなかったが中々の美人だ。

ネコ人か…猫というよりタヌキ顔というのか、

なんとも人懐っこそうな愛嬌のある顔立ちだ。



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