Part6 舞原日羽は八木やまい!?
第47斤
あんな訳のわからないものを見せられてから、また別の場所に行ったり何かを話したりなんてできるはずはなく、半ば強制的に退店させられた僕らはそのまま解散となった。
それから一夜が明けた今、僕は自宅のダイニングでテレビを見ながら白野さんと朝食のパンケーキを食べているところである。
このまま白野さんを放っておくと色々な意味で不安になったので、僕の方からLINEで朝食に誘ってみたらあっさりと承諾してくれた。今は僕の隣でヨーグルトをゆっくりとスプーンで掬って口に入れている。ひとまず、無事でいてくれたことに安心する。
『昨日午後1時30分頃から行方がわからなくなっているバーチャルユーチューバー・
「中の人などいない」というVTuberコミュニティの暗黙の了解をあっさりと打ち破り、女性アナウンサーが冷静に原稿を読み上げる。そんな中情報の釘を強引に頭に打ち込まれつつもなんとか情報を咀嚼し、説明を試みる。
真駒照乃。事務所「
しかし数日前、配信中に男の声が聞こえると騒ぎになり、それと同時に
「私も……消えるのかな……」
ヨーグルトを食べ終えた白野さんが、今にも決壊寸前の顔と声で呟く。
「君が消えるなら、僕だって消えるかもしれない」
「私が……消えたら……」
「大丈夫、僕がついてる」
そんな顔に僕は、何の根拠もないそんなありきたりなことしか言えなかった。つくづく僕は肝心な時に役に立たない。パンケーキにかかっているハチミツの匂いが、いつも以上に鼻腔を刺激する。
「知晴ちゃんもむぎくんも、消されるようなことなんてしてないですよね? ね?」
母が重い雰囲気を浄化しようとせんばかりに明るい声で僕の肩を叩きながら言った。一応母にも、僕たちが昨日このニュースの現場に出くわしたこと、白野さんもYouTuberをやっていることを話しておいた。ただし、VTuber黒和わわの名前は出さないようにしておいた。
「それはそうだけど……」
「だったら何も心配する必要なんてありません! それにもし消えそうになっちゃってもお母さんとして守ってあげますから!」
母が小さい身体ながらも頼りになりそうな態度で胸を叩きながら堂々と言うと、インターホンもピンポーンと堂々と音を鳴らした。
「こんな時間に……誰でしょうか?」
母はそう言いながら玄関に向かった。
そうして扉を開ける音が聞こえた瞬間「きゃあああ!」という悲鳴がダイニングまではっきりと響いた。
考えるより先に、僕は玄関へと走り出していた。
「むむむむむむぎくん! 誰ですかこのイケメンと可愛い女の子は!」
母は腰を抜かして、玄関に立っていた男性――つよしを指さしていた。そしてつよしの隣ではルイちゃんがなぜか僕の生徒手帳を警察手帳よろしく僕に見せつけてきて、ルイちゃんを大人に成長させたような赤縁眼鏡の美人が僕を横目に見ながらつよしの腕にがっちりと抱きついていた。
「今しがたいいだとも連絡が取れなくなった。君は煙出してないだろうな?」
両手の花には目もくれず、つよしはサングラス越しに心配の眼差しを僕に向けてきた。
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