第16斤
「どういう、ことなの……?」
白野さんが、僕に詰め寄る。柔らかくて温かくて、ポテチの油にまみれた手が、僕の太ももに触れる。
「色々あってね」
「色々ってなに? ちゃんと教えてくれないなら……配信やめる」
「それ言えば断らないとでも思ってるんでしょ」
「う……!」
「その通りだけど」
「うべべららあ……」
僕の行動でわっちんが引退するかどうか決まるというのであれば、焼きバター代表として引退しない道を選ばせていくしかない。とはいえどこからどうやって話せばいいだろうか。頭の中でよく誰かに説明してるくせに、いざ自分のことを説明しろと言われたら上手くできそうにない。考えがまとまらないまま、僕は一時停止が解かれた画面を指さす。
「中学時代、3人でこうやってYouTuberっぽいことをやってたんだよ。見ての通り、クオリティはお察しで再生数も多くて4桁って感じだったよ。伸びたのは大抵ヒナが可愛いだけの動画だった」
「この人たちは……クラスメイト?」
「うん。僕の隣を歩いてるさわやかイケメンはレート。本名は
「ツインテールの女の子の方は?」
「ヒナ」
「本名は……なに?」
白野さんが僕を縛り付けるかのような眼差しで睨みつけてきた。言わなきゃ駄目か。駄目だろうな。僕は白野さんに気づかれないようこっそりと深呼吸した後、再び口を開けた。
「この子の本名は……
僕がそう言った刹那、白野さんは目を見開き、口を開けて固まった。
「同じなんだよ。わっちん……黒和わわと」
「え……?」
「わっちんと……君と出会ったのは、偶然じゃないんだ。ヒナがいたから……僕は……君と出会って……」
「苗字が……同じ……」
「うん。だから名前を見た瞬間、君を知るしかない、君を見るしかないと……それにツインテールで……」
駄目だ。自分でも自分が何を言っているのか理解できない。
やっぱり、自分の説明は、上手くできそうにない。
『聞かせてよ、××××××××××××!』
頭の中で、×××××××××××。
「どうして……やめたの……?」
でも、いつものように言葉足らずな白野さんの言葉も、今ははっきりと理解できた。僕自身が、同じ状態になっているから。
「亡くなったんだよ。彼女」
「えっ……」
白野さんは絶句した。僕だって正直まだ、心のどこかで、今もどこかで彼女が平然と生きているんじゃないかって思ってる。葬式だって親族だけで行われて、出席できてもいないから。
「配信前だし、重い話はやめよう。このことはいつかまた話すよ」
「う、うん……」
『渋谷にとうちゃーく!』
僕は、僕たちがヘトヘトになって渋谷まで辿り着いたところで、少しだけ強引に、彼女からリモコンを奪った。そして再び、リムリムとめろんちゃんの配信を画面に流す。リモコンに付着した油はティッシュで拭いた。
『こっから撃っちゃお!』
『おっけぇ~』
白野さんは僕の行いに反論も抵抗もせず、それ以上僕に何も聞くことはなかった。
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