第9斤
「配信に付き合ってって、もうとっくに付き合ってるんだけど」
白野さんに首を絞められて耳元に顔を近づけられながら、僕は普通にそう答えた。僕は生粋の焼きバターな訳だから、ほぼ全ての配信をリアタイ視聴しているんだけれども、これでもまだ不満だとでも言うのだろうか。
「ち、違う! そうじゃなくて……!」
「そうじゃなくて?」
「それは、その……」
「その?」
「その……」
白野さんはまた言い淀み、僕から手を離した。首が楽になったので歩きながら彼女の顔を横目に見る。彼女も僕と同じような速さで歩いている。黙ったまま。
「ほ、ホラゲ配信……見たいなら! 私が配信してるとこ、部屋で見ててって言ってるの!」
「配信は基本部屋で見てるよ」
「ち、違くて……! えっと……部屋っていうのは、私の部屋ってことで……!」
彼女は空気が薄い中頑張って振り絞っているかのような声を出して、つまりそれはということを言い放った。それはつまり。
「君の家に来いってこと? それで黒和わわとして配信してる様子を、目の前で見てろと?」
僕が確認すると、白野さんは顔を赤くして無言で首肯した。そして僕より前を歩き始めて電柱にぶつかりそうになって「ぶえて!」と言った。まさかドジっ子なのか? わっちんにはそういうイメージなかったんだけど。
「ひとりでホラゲやってて……寝れなかったことあるから……だからいてよ……。私の……黒和わわの配信を……これからも……見たいなら……」
小さな声でボソボソとしながらも、断るなよ、という圧力を込めたような声で僕に言う。電柱にぶつかりそうになったのを誤魔化そうとしてるみたいだった。
「僕がそうしないとわっちんが引退するっていうなら行くよ。他の予定も特にないし」
「じゃあ……放課後……一緒に……」
「そうだね。一緒に帰ろうか」
「うびけへえあ……!」
「なんて?」
「なんでもない!」
そうして話をしていたら豆腐みたいに白くて四角い学校が頭を出し始めたところだった。白野さんはそれを確かめると駆け足になって、どんどん僕から離れていった。下校は一緒だけど登校で一緒になる気はないってことか。めんどくさいな。でも僕も遅刻するのは嫌なので、急ぎ目に学校へと向かった。
それから午前中はこれといった会話を交わすこともなく、昼休みを迎えた。ただし僕はまた先生に質問攻めにされ続けて満身創痍だった。
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