第4話 治療費は、あとどれぐらい必要なんだ?

 仲間たちとギルドで話をしてから、3時間ほど立った正午過ぎ。


 俺は、拠点としている宿やの一室で、ある女性と待ち合わせていた。


 女性を個室に招き入れるのは気後れしたが、誰にも聞かれたくない話をするのに、これ以上の場所はない。


「お待たせしました」


 ノックの音とともに現れたのは、ひとりの長身の女性だ。

 ルシオラ ファズリッチ。アタリ天職と名高い、『魔法剣士』の少女である。

 数ヶ月前に、パーティ合併によって『マーテル』のメンバーになったうちのひとりである。

うちに在籍する以前にいたSランクパーティ『トロイア』では、パーティリーダーをつとめていた実力者だ。


 ルシオラはコートを脱ぎ、手近にあった椅子にかけた。

 ろうそくの明かりに照らされて、腕に巻かれた金のブレスレットがキラキラと輝いてみえた。


「大事な話とは何でしょうか?」


 透き通るような声が、静かにそう問いかけてくる。

 俺はまず、手に持った皮紙をルシオラに差し出した。

 ルシオラが受け取り、皮紙に目を落とす。


「脱税って、犯罪だったんだって。……パーティに通達が来た」


「そんなっ、もうバレたんですか!?」


 上ずった声をあげて、ルシオラが口元を両手でおおった。

 ルシオラの手から皮紙がすべりおちて、ふわりと床に落ちた。

 ルシオラの肩が、小さく震えていた。


 雰囲気から察するに、ルシオラには脱税が犯罪だという認識はちゃんとあったらしい。


 俺は、落ちた皮紙を拾い上げようと手を伸ばした。

 すると、「ダンッ」と音をたてて、ルシオラが床に膝をついた。


「申し訳ありません! 私のミスです!」


 そういって、ルシオラが深く頭を下げた。


「落ち着いて。責めるつもりはないんだ」


 ルシオラの肩を支えて、体を起こさせる。

 彼女はまだ震えていた。


「でも、どうして……、こんな短期間でバレるはずが……」


「脱税の話は、置いといていい」


「よくありません。追徴金や罰金のことだって考えないといけないのに……」


「追徴金はロイドたちがなんとかしてくれた。俺の罰金も、なんとかなるから」


「なんとか……なるんですか?」


 こちらを見上げるルシオラの視線が、すっと冷たい色を帯びた。


「ああ。ロイド達が貸してくれたよ。それより、話し合わないといけないのは今後のことだ」


 腕を引いて、ルシオラを強引に立ち上がらせる。

 ルシオラは足もおぼつかない様子で立ち上がった。


「ルシオラ……妹さんの治療費は、あとどれぐらい必要なんだ?」


 そう問いかける。

 ルシオラの目が、ろうそくの炎をうつして、怪しく輝いた。




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