プロローグ3 【コウカ目線】
この国はどこかおかしい。そう思うようになったのは、いつからだろう。
慣れ親しんだ故郷を離れ、王都へと異動になったあの日――俺が見たのは異世界だった。そこにはクワも、牛も、畑もない。人と、物と、金で溢れた異世界だった。
誰もが華美な服を、飢えを感じたこともないであろう――ふくよかな身に付けている。俺は学校で教えられてたことを初めて疑った。国民が一致団結し、その身を削りながらも、我が国のために皆が働いてるって……多分嘘なんだろう。
俺らは王都の連中と、雷神族のために働いているんだ。
「コウカ少尉。本日付けで、貴殿には雷神族護衛の任に当たってもらう」
「はい、承知いたしまし……え、雷神族護衛……ですか?」
あまりに唐突で、思わず了承しかけてしまう。俺が雷神族護衛だと……?
「あぁ、急な辞令となってしまって申し訳ない」
「えっと……そうではなくてですね……なぜ小生にそのような大役を任せていただけるのかと……」
「今回の雷神族はすごく若いんだ。十四の男と、十五の女。どうやら、我々より背の低い雷神族らしいぞ」
そうは言われても、雷神族なんか見たこともないから背が低いのが珍しいなんて知らない。共通認識のように言わないで欲しい。
「十五歳ですか……小生と同じです」
「だから少尉が適任だと考えた。護衛と言っても奴らの方が強いんだから、こちらのすることは護衛ではない。――監視だ。年が近い方が警戒されないだろ?」
とても複雑な気持ちだ。雷神族護衛は栄えある任務だ。慣例に従うなら、軍の中でもかなりのベテランしか選出されない。それを任されたのは素直に嬉しいが、同時に嫌悪感に似たものも感じる。
戦争、外交、宗教。色んな理由があるけれど、雷神族には膨大な予算がつぎ込まれている。その金で、何人の村の子どもたちが元気に走り回れるようになるんだって額だ。雷神族は国家が認めた――どんな国民より価値のある生物だ。それを一日中見ていなさいって……反吐が出る。
「承知しました。この大役、務め上げます」
「よし、馬車がもうすぐこの駐屯地に来るはずだ。出迎えておいてくれ」
軍で最初に習った形式的な、無機質な挨拶を済ませて、そそくさと部屋を後にする。どれだけ不満があろうとも上官命令は絶対だ。愚痴を吐くのは村に帰るまでお預けだ。
ズボンをへその少し上まで上げ、ベルトをきつく締める。上着の汚れを軽く払って、しわの付かないように慎重に羽織る。……我ながら不格好だ。ズボンはまだ何とか誤魔化せるが、上着はどうしても袖までが遠い。親指がすっぽり隠れてしまう。毎回、袖をまくるのが面倒になってくる。
辞令を受け取って、身支度をしている間に考えた。自分が雷神族に対して出来ることは何だろうかと。奴らは無敵だ。電流を防ぐ盾でも作られない限り、人間はずっと雷神族の傀儡だ。
少しでも情報を集めよう。弱点とまではいかなくても、何か対抗できる手段を見つけよう。例えば奴らしか知らない――電気を通さない物質の存在を詮索してみるとか……まぁそんな夢みたいな物質があれば王国も苦労しないよな。
そして定刻通りに馬車が到着した。どうやら国賓用の馬車に乗ってきたようだ。王都内を移動しているのをたまに見かけるが、ここは軍の施設だ。違和感を禁じ得ない。
「はあぁ、やっと着いた! ここがオーツちゃんの新しい世界じゃ!」
「ちょっとオーツちゃん……あんまり騒がないの……あ、あなたが僕たちの衛兵さんですか?」
思わず言葉を発するが一拍遅れてしまった。地平線まで続く空よりも青い瞳、太陽よりも光り輝く髪、耕し終えた畑のように整った肌。俺は彼女の全てに見蕩れていた。
「ほ、本日よりお二人の護衛をさせていただく――コウカ少尉です……えっと……お、オーツ様と、ツヅキ様ですね? 半年間、よろしくお願いします!」
――こうして各々の目的が錯綜する、雷神族のエレクトリックな世界に選ばれたヤツらの物語が始まった。
エレキな世界の選れ気なヤツら! 相麻颯真 @write_somasouma
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます