第35話 終わったぞ
エルがはぐれ妖精達に説明した様に、ヴィーにとって妖精狩りが何人群れようが関係なかった。
腕の良い狩人であれば、多少報酬が良いからと言って、法に触れる様な妖精狩りなど絶対にしない。
縦んば多少腕の良い狩人が居たとしても、弱い狩人を率いてい悦に居る様な輩など、たかが知れている。
裏家業を生業にしている者など、本当の意味での強者の存在は、極わずかでしかない。
先程倒した妖精狩りも、やはりそんな例外的な強者などではなかった。
妖精狩り達3人の息の根を、ヴィーは一息で断った。
そして、少し俯き加減で冷たい声で妖精狩り達に告げた。
「1人は生かしておいてやる」
残りの男達に向かって呟くと、ヴィーは矢筒から矢を1本抜き出した。
「さて、次は誰が死ぬ?」
ヴィーが一歩踏み出すと、男達は一斉に振り返ると、一目散に逃げ出した。
男達はただヴィーから距離をとる為にだけ、形振り構わずただ闇雲に全力で走った…いや、走ろうとした。
まだ年若い少年が殺人を犯したにも関わらず、その事に何の感情も表に出さない不気味さに、恐怖を覚えたからだ。
だが、それは叶わなかった。
妖精狩りにとっては、まるで悪魔の化身の様に見えた少年からは、そもそも逃げ切る事など不可能だったのである。
ヴィーの左に向かって走り出した2人は、1,2歩足を踏み出した瞬間、少年の持つ強弓で背後から首を狩られた。 右に逃げた2人は、その場から早く離れようと無意識に森の拓けた小道へと進んだのだが、走り出してすぐに後頭部から額まで、ほぼ同時に矢で射抜かれ息絶えた。
ヴィーが最初に対峙し問答した男は、むしろもっと森の深い所へと向かって逃げたので、一瞬その姿を見失ったが、森の木の上に飛び上がりその姿を捉えると、そのまま木の枝を次々と飛び移り、やがて男の前へと降り立った。
下生えの草や低木の茂る自然の森の中など、そう簡単に走り抜けられるはずがない。
男は大してヴィーとの距離を稼ぐ事も出来なかったばかりか、枝の上を鳥の様に飛び移るヴィーの速度に敵わなかったのだ。
男の目の前に降り立ったヴィーが、ゆっくりと矢筒から1本の矢を引き抜くと、
「そ、そんなに急がなくても…いいじゃないか…。ちょっと、ゆっくり話をしよう…ぜ? 」
行く先を塞がれた男は、じりじりと後退りしながら、ヴィーにそう声を掛けた。
その表情から、言葉は平静を装いつつも、恐怖の感情が色濃く表れている。
男には、ヴィーが物の怪か何かの類にしか思えなかったのだ。
「話す事など何も無い。安心しろ。最初に言った様に、お前は生かしておいてやる」
その言葉に安堵したわけでは無いのだろうが、ほんの一瞬、男は気を抜いた。
「お、おぉ…そうだろう、そうだろう。俺達のバックには…」
どうやら自分には後ろ盾が居るとでも言いたかったようだが、そんな言葉にヴィーが耳を貸すはずもない。
そもそもこの森の中という特殊な戦いの場において、言葉など何の意味もない。
死ねば獣の餌になるだけであり、何の証拠も残る事は無いのだから。
それに、生かしてもらえるというだけで、何も五体満足に…などとヴィーは一言も言って無い。
男が語ったいる途中、ヴィーは左足の太腿を矢で打ち抜いた。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
更にヴィーはゆっくりともう1本矢を手にすると、右肩を射抜く。
「ぎゃゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
男の絶叫が森に響く。
男が膝を付き蹲る男の前へゆっくり歩み寄ると、
「…五月蠅い…」
そう一言呟くと、ヴィーは左足の爪先で男の顎先を蹴り上げ、昏倒させた。
『エル、終わったぞ』
ヴィーは手近な樹に巻きついていた蔓を引きちぎり鉈で切り落とすと、昏倒させた男の手足を縛り上げた。
『了解! 2人は保護したよ。どっちも怪我してるけど大丈夫!』
エルからの返信を聞き、ヴィーは漸く表情を少しだけ緩めた。
『片付けたら、そっちに行くよ』
気が付いた時に騒がれては面倒と、男の両袖を引きちぎり、片方を口の中に詰め込み、もう片方で口が開かぬ様にがっちりと口の周りをぐるぐる巻きにした。
本来、気絶している者に猿轡をするのは、かなり危険な事である。
下手をすると窒息してしまう事もある程だが、ヴィーにとってこの男の価値など、背後関係を喋らすためだけしかない。
死のうが生きようが、そんな事は気にしない。
それよりも目覚めた時に騒がれる方が、ヴィーにとっては面倒だ。
まあ、射抜いた傷の血止めすらしていない時点で、ヴィーがこの男に大した価値を見出していない事は明らかなのだが…。
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