第29話  それって大事な事?

 その日の夕刻間際、オーゼン王国の王であるマイラフは、謁見の間で数名の側近だけを残し、ギルド本部長と謁見を行った。

 謁見内容は、予てよりマイラフがギルドへと依頼していた件に関してである。


 ◇

 

 謁見申請に訪れたギルドからの先触れが受付に伝えたのは、【緊急に謁見を願う】という簡素な内容であり、その手には厳重に封蝋のされた手紙があった。

 普通、この様に謁見の申請理由が不明な場合は、『理由をはっきりさせろと』突っぱねるところなのだが、先触れに対応した王城の受付が新人だったからか、その上役にまで手紙は届けられた。

 手紙は厳重に封蝋がされており、また非常に上質な物羊皮紙の手紙であったため、上役である文官も封を切らず王の執務室へと届けてもらえる様に、王の側近の上級文官の一人に届けられた。

 偶然が重なった結果、先触れが来てから間もないうちに手紙が国王その人の手に渡った(先触れが口頭で伝えた謁見申請理由は受付で止まったままだが)。

 そして、厳重な封を訝しみながらも手紙を読み始めた国王は、先日の妖精女王からの通信にあった事件と繋がる嫌な物を感じ取り、本日中にギルド本部長との謁見を手配する様、手紙を持ってきた文官に伝えた。

 こうして、野生の勘を働かせた王により即日謁見が実現した。


 ◇

 

 王都ギルド本部長であるエムリームの報告を直接聞き、王は嫌な予感が的中したと感じた。


 実は今回の情報の流れは、その通信の法具の特性上、とても複雑になっていた。

 まずエルから話を聞いた妖精女王から国王へ、国王からギルド本部長へ、本部長から東3番支部長、そして逆に支部長から本部長へと情報が行き来し、最後に直接国王への謁見となったのである。

 もっとも、謁見が叶わなかった場合は、国王に通信の法具で話をするだけの事であったが、支部長の話を纏めた報告書を見せながらの方が話が早いだろうと思っての謁見であった。

 

 この様に通信の法具とは、一対の法具同士でしか話が出来ず、通信したい場所が増えれば増えるほど法具の数も増えてゆくという、情報伝達の速度的には便利であるが不便な面も持ち合わせてる。 


 手元の報告書とエムリームの話を聞いた国王は、ユニオンへはぐれ妖精の調査と保護と不審な狩人の情報収集を命じ、共に報告を聞いていた軍務長官に、他国の動向や各町村へ出入りする人の流れなどを調査するように命じ、謁見を終えた頃には日もすっかと落ち辺りは暗くなっていた。

 国王の野生の勘と積極果断な対応で、即座にギルドと軍部の間に情報共有体制が敷かれる事となったのは良い事だが。


 夜分ではあるが、緊急性と重要性が高かったため、妖精女王へギルドからの報告内容を伝えようと、マイラフは通信の法具を起動した。

 妖精女王が、溺愛するヴィーとの大事なひと時を邪魔されたとオーゼン国王にさんざんに文句を垂れたが、絶対にマイラフは間違ってないと思う。


 ◇

 

 夕飯後のヴィーとのいちゃいちゃタイムを、どこぞのおっさんに邪魔された妖精女王は、『あほー! お邪魔虫ー!』などと散々な罵声を浴びせたが、その報告内容はしっかりと神妙な顔で聞きいていた。

 最後に、こちらでも動くと伝えるて、妖精女王はオーゼン国王の通信を切った。

 妖精女王は、共に聞いていたヴィー(ついでにエル)に、

『やっぱりどこかの妖精の村が襲われた可能性が高いそうよ。はぐれ妖精が近くに居るかもしれないって。それも、もしかしたら複数。本当かどうかわからないけど、ヴィー君頼めないかしら』

 妖精女王の、そして妖精の守護者を自認するヴィーは、即座にそれを了承した。

 もう日も暮れた夜だというのに、出発の準備を始めたヴィーを見た妖精女王は、

『ヴィー君、何やってるの?』

 もの凄く不思議そうな顔でそう訊ねた。

「早い方がいいだろうから、すぐ行こうと思って」

『…え? お母さんといちゃいちゃするより、それって大事な事?』

「『…………』」

 仲間の妖精が危機かもしれない時だというのに、妖精の王族としてこの言い種。

 ヴィーもエルも絶句である。

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