第22話 今夜ぐらいは…
寝る前に本日一番の労力を使いぐったりとしたヴィーは、柔らかい草の繊維で編んだシーツで包んだ藁のベットにごろんと横になり、これまた懐かしい草で編んだ天井を見上げていると、村に戻った安心感からかはたまた疲労からかは分からないが、すぐに強い睡魔に流されるまま眠りについた。
女王の結界のおかげで年中快適な温度に保たれているこの村では、道端で寝たところで冷えて風邪をひくような事もない。
また、妖力をその身に溜め易い種族である妖精種は、特にその身に害悪となる様な物に対する耐性が極めて高く、滅多な事では病などにかかる事はない。
これは別に妖精種だけに限った話では無く、その身に妖力を持つ者の多くはこの様な耐性を持っている。
とは言え、この村が非常に強い妖力溜まりとなっている為、ここで長く暮らしている妖精達の体には、自然に多くの妖力が溜まっているので、普通に妖力を持つ者達の数倍は病に対する抵抗値が高いのである。
ちなみに、妖力の少ない土地の妖精種は、ほぼ持って生まれた妖力から変化し無い。
人種であるヴィーは種族的にあまり多くは妖力を溜められ無いはずなのだが、赤子の頃から強い妖力をその身に浴び続けため、妖精達ほどではないが、一般の人種の数倍は妖力をその身に宿している。
妖力をその身に溜める事が出来る量は体の大きさに比例しているため、ヴィーは人種としては結構な量の妖力を持っているが、ヴィーと体格の変わらない女王は種族柄ヴィーをはるかに凌ぐ妖力を持っている。
尤も、ヴィーが人種の限界を大きく超える程の妖力を見に宿す事が出来るようになったのには、別に秘密もあるのだが…。
ヴィーがぐっすり寝入ったのを確認して、コソコソと気配を消して部屋に侵入してきた女王は、息をひそめたままヴィーの横にぴったりとくっ付いた。
ヴィーとほぼ同じ体格の女王は、淡い緑色の長い髪がヴィーにかからぬ様に慎重に後ろに回し、実はあんまり豊かでない胸(まったくの平原ではない)を、そっとヴィーの背中にくっ付け…ようとしたが、くっつかなかったので諦め、普段は長袖のロンググドレスで隠されているスラリと伸びた艶やかな肌の手と足をヴィーの体にそっと絡めた所で満足したのか、やがてすやすやと規則正しい寝息をたてはじめた。
もちろんヴィーは女王が部屋にコソコソ入って来た時から気付いている。
だが気配から女王である事がわかっていたため、あえて彼女の好きにさせていた。
母親にあれこれと構われたりベッタリされたりするのが恥ずかしいお年頃なので、普段は母の魔の手から逃れようとするヴィーだが、今夜ぐらいは一緒に寝ても良いかと思い気付かぬふりをしたのだった。
だが、直後に顔の上にべチャっと貼り付いて来たエルだけは、摘まんでポイっと横に放り捨てた。
翌朝、女王は息苦しさから目覚めた。
目を開けた時、何かが視界を塞いでいたので、慌てて手でそれを払うと、ぐーすか寝ているエルであった。
寝ている女王の顔に、エルが大の字で貼り付いて寝ていただけの事なのだが、ヴィーとの甘い朝を期待してた女王は、悪夢に魘され起きたとプンスカと怒っていた。
昨夜、エルをポイっとして女王の悪夢の原因を作ったヴィーも女王とほぼ時を同じくして目覚めたのだが、エルの涎まみれで顔が酷いことになっている女王を見て、面倒な事になりそうなので昨夜の事は記憶の奥底にきっちり封印することにした。
◇
ヴィーが捕縛した妖精狩りは、ギルド東3番支部の地下で、厳しい取り調べを受けていた。
だが、依頼主などの詳しい事はリーダー格の者からは全く知らされておらず、そのリーダーと思しき男は、すでにヴィーによって殺されており、所持品の中にもヴィーが見つけた者以外は、これと言てた手掛かりは無かった。
ただ、取り調べを受けた男達の記憶では、武器は依頼主から提供された事、はぐれの妖精が複数いてそれを捕獲しに来たと…いう事は、厳しい取り調べという名の拷問の結果わかった。
その証言内容から、はぐれ妖精というのがヴィーの相棒であるエルの事かとも考えられたが、話しからして複数の妖精という点が
どうにもこうにも食い違っている。
無論、回収した妖精を捕縛するための籠も複数あり、エルの事ではない様に思われた。
これは王都の本部とマイラフ王に報告すべき重大な案件だと、何か良からぬことが起きなければいいが…と思いながら、ギルド本部長へと繋がる通信機を、初老の支部長は起動させた。
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