第10話 田中、元同僚に会う

『グウウ……』

『ガアアッ!!』


 モンスターたちは突然現れた俺に向かって襲いかかってくる。

 オークにミノタウロス、サラマンダー……どれもBランクのモンスターだ。やっぱりこの前のモンスターより強いな。だが、


「我流剣術、またたき


 高速の居合が放たれ、モンスターたちは一瞬で両断される。

 地上にいることを除けば、普通のモンスターとなんら変わりはない。逃さないことだけ考えて戦えば、ダンジョンの中とやることは同じだ。


"うおおおっ!!"

"やっちゃえシャチケン!"

"Bランクごときに負けるわけがないんだよなあ"

"シャチケン以外にも戦ってる人いるみたいだし、なんとかなるか?"

"須田ァ! 今どんな気持ちィ!?"

"煽るなww"


 モンスターの数はそれほど多くない。魔物災害と比べたら、被害の規模はずっと小さいだろう。

 だけど一般市民が感じる恐怖は大きいはず。早くこの騒動を終わらせないとな。


 見れば俺の他にもモンスターと戦っている人たちがいる。

 着ている服を見るに、魔対省でも警察の人間でもなさそうだ。ギルドに協力を要請していると言っていたから、そっちの人だろうな。

 などと考えていると、戦っている内の一人が俺に気づいて近づいてくる。

 ん? あの大柄の男……どこかで見たことがあるような。


「田中さん! 来てくださったんですね!」

「え、お前もしかして郷田ごうだか?」

「はい、退職された時以来ですね」


 190cmを超える巨体の持ち主、郷田ごうだ将人まさとは俺に頭を下げる。

 こいつは黒犬ブラックドッグギルドにいた時の後輩だ。強面でおっかないけど、意外と礼儀が正しくい奴で、戦闘の才能も豊かな奴だった。頼まれて戦闘技術を教えたこともある、懐かしいな。


 退職してからは会ってなかったけど、まさかこんなところで会うなんてな。


「まさかお前が戦っているなんてな。ギルドに就職したのか?」

「いえ、中々いいところに巡り会えず、フリーランスでやっています。今日もギルドのヘルプで」

「そうか。まあお前ならどこでも上手くやっていけるだろう」


 郷田はいかついけど器用なタイプだ。

 実力もあるし食いっぱぐれることもないだろう。


"見たことあるなと思ったけど、須田にシャチケンを倒せって命令されてた人じゃん"

"あー、あの人か。切り抜きで何度も見たわ"

"実力差分かってたから断ったんだよな"

"普通に田中に恩義感じてたからだぞ。須田に人望ないしなw"

"黒犬ブラックドッグギルドの良心"

"街に警察とかゴツい人とかたくさんいたけど、このためだったんだ"


「とにかく田中さんが来てくれたなら安心……ん?」


 気づけばこちらに向かって一体のモンスターが突っ込んできてくる。

 それに気づいた郷田は背中に装備していた大剣を抜き、構える。


「手伝うか?」

「いえ、あれしき私一人で十分です」


 向かってきているのは背中に推進装置スラスターが生えている牛型モンスター、ロケットブルだ。あれとは前に星乃と戦ったことがあるな、確かBランクのモンスターだ。


「来い……!」

『ブモォ!』


 ロケットブルは推進装置スラスターから魔素を噴出させ、高速で突進してくる。

 郷田は大剣を肩に担ぎ、どっしりと構える。


 そしてロケットブルの角が胴体に命中するギリギリで、剣を思い切り振り下ろす。


「ふん……っ!」


 振り下ろされた大剣はロケットブルの頭頂部にヒットする。

 その威力は高く、ロケットブルは地面に叩きつけられ、『ブモォ!?』という断末魔と共に命を落とす。久しぶりに郷田の戦闘を見たけど、前よりずっと強くなっている。どうやら鍛錬を欠かしてはないみたいだ。


"こいつもパワー系か"

"つえーw"

"シャチケンの弟子、パワー系が多いな"

"パワー系は引かれ合うからな"

"唯ちゃん弟子の座取られるぞ!"

"なに、まだ嫁の座が残ってる"

"その席の方が埋まってるんだよなあ……"


「強くなったな郷田。これは追い抜かれる日も近いな」

「はは……嬉しいですが田中さんには遠く及びませんよ。強くなればなるほど、そう実感します」


 謙遜する郷田。

 俺はそんなことないと思うんだけどなあ。郷田は若いし、頑張れば追いつけるだろ。星乃や凛もそうだ。


"そう簡単にお前みたいになれてたまるか"

"郷田くんは現実が見えてるな"

"逆に須田の現実の見えてなさが浮き彫りになるな……w"

"社畜特有の低い自己評価"

"誰が追いつけるねん"


 などと話していると、モンスターたちが俺たちを囲む。

 どうやら目をつけられてしまったみたいだ。


「やるか。合わせられるか?」

「はは……善処します」


 俺の問いに、郷田は引きつった笑みを浮かべながら答える。

 少し自信なさそうだけど、まあこいつなら大丈夫か。


"頑張れ郷田ァ!"

"そりゃできないとは言えんよなw"

"男魅せる時だぜ"

"シャチケンも無茶言うなあww"

"やっちゃえ!"


『ガウッ!!』

『ゴアアアッ!!』


 一斉に襲ってくるモンスターたち。

 俺は近寄ってきたそれらを一刀のもと、切り捨てる。そして近づいてきた一体のオークの頭をつかみ、モンスターの群れにぶん投げる。


「ほっ」

『ミギャア!?』


 吹っ飛んでいったオークがモンスターの群れにぶつかると、モンスターたちは散り散りに吹き飛び、倒れる。ふう、今の一発で結構減らせたな。


"めちゃくちゃで草"

"ボウリングかな?"

"これはナイスストライク"

"フハハ! モンスターがピンのようだ!"

"あ。また投げた"

"モンスターがおもちゃみたいに吹き飛んでく……"

"郷田くん唖然としてて草"

"近くで見たら尚更訳わからんだろうなw"


「これでラスト……!」


 俺は逃げようとするオークを斬り伏せる。

 念のため気配探知をしてみるけど、周りにモンスターの気配はない。よし、これで片付いたな。


「お疲れ様です。田中さんが来てくれて助かりました」

「こっちこそ助かった。民間人の避難をしてくれたおかげでスムーズにできた」

「いえ、これが仕事ですので」


 郷田の他にも、多くの覚醒者が市民を避難させ、モンスターを抑えてくれた。

 おかげで街の被害も最小限だ。


 さて、街の復旧作業でも手伝うか……と思っていると、スマートフォンが鳴る。確認してみると、今度は違う場所でモンスターが現れたらしい。

 須田め、喧嘩してやると言っているのにこそこそしやがって。


「悪い郷田。ここは任せていいか?」

「当然です。田中さんは田中さんにしかできないことをして下さい。あなたが思っているよりも、あなたに恩を感じている人は多いです。みんな喜んであなたに力を貸しますよ」

「……ありがとう。恩に着る」


"郷田まじでいい奴だな"

"シャチケンに恩を感じてる人は多いよな。何回も国の危機を救ってるし"

"てか皇居ダンジョン帰還者というだけで英雄だからなw"

"シャチケンのおかげでブラックギルドも摘発されるようになったしね"

"田中の影響で小学生のなりたい職業1位がDチューバーになったし、田中を慕う人は増えるだろうなw"

"社畜チルドレンが増えるのか"

"名称が嫌すぎる……w"


次の場所に行くことにした俺は、スマートフォンを操作する。

 するとすぐにステルス機『月影』が空よりやって来て、俺の隣に着地する。魔導エンジンと特性推進装置スラスターのおかげで、この戦闘機は空中で静止することも可能らしい。


「それじゃあここは任せた。今度飯でも行こう」

「え、あ、はい!」


"郷田くん慌ててかわいいなww"

"そりゃ空から戦闘機来たらビビるわw"

"少し前の俺らと同じ顔してる"

"郷田「なんでこの人、戦闘機の上に乗ってるの?」"


 俺が月影の上に乗ると、すぐに月影は発射し、次の目的地めがけて高速飛行を開始する。

 この速度なら次の出現地点にも1分足らずで着くだろう。


「須田、俺は逃げも隠れもしないぞ」


 いまだ姿を見せない幼馴染みを引きずり出すため、俺はモンスター退治を続行するのだった。


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