第9話 田中、高速で飛ぶ
――――須田による声明が出されてから二日後。
東京都内、池袋にて二回目のモンスター出現が観測された。
不要な外出を控えるように政府から要請が出ているが、全ての人がそれを聞くことなどできない。仕事などで外に出なくてはいけない人もたくさんいるからだ。
「……来たか」
魔物対策省にてモンスター出現の報告を待っていた俺は、その情報を聞いてすぐさま行動を開始し、用意してもらっていたその
「今日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いいたします! 田中殿と仕事ができるとは光栄です!」
パイロットの人と挨拶をかわし、俺はそれに乗り込む。
まあ乗り込むと言っても席はなく、それの上にぴょんと乗るだけなんだけど。
「おっ」
乗っているそれが動き出し、機体が揺れる。
すうっと真上にそれは浮遊していく、なんだかUFOにでも乗っているみたいだな。
「おっと、配信をつけなくちゃな。自撮り棒をつけて、と」
俺はスマートフォンを自撮り棒につけて、配信を開始する。
すると一気に視聴者が流れ込んでくる。
"ん?"
"え!?"
"配信してるやんけ!"
"こん社畜"
"なんで配信してるの!?"
"ここ外?"
"ダンジョン配信しとる場合かー!"
"モンスターが街に出てるんですよ!?"
"これはさすがに不謹慎"
"炎上不可避"
ふうむ、いつもよりコメントが荒れているな。
まあそれも無理ないか。こんな一大事の時にダンジョン配信なんてしてたら、
それに犯人の須田は俺を名指ししている。この事件に関係あるから尚更だ。
「みなさんこんにちは、田中誠です。今日は来ていただきありがとうございます」
挨拶している間も俺が乗っているそれはどんどん上昇していく。
「今日はいつものダンジョン配信ではありません。みなさんも知っての通り、現在私の元上司、須田明博がモンスターによる無差別破壊行為を行っております。須田のせいでたくさんの方に迷惑を心配をおかけし、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいです」
"ん? ダンジョン配信じゃないのか?"
"じゃあなんなん?"
"てか空飛んでね?"
"田中ァ! あのカスをどうにかしてくれ!"
"謝罪だけなら誰でもできんだよなあ"
"責任取れ責任!"
"いやシャチケンは悪くないだろ……"
"珍しく活きの良いアンチがおりまんなあ"
「須田は私を名指しして『復讐』をすると言いました。彼の言葉は身勝手で筋が通っていません。聞く耳を持つ価値すらありません。しかし……私はその『喧嘩』を買うことにしました」
"!?"
"え!?"
"まじ?"
"全面戦争や!"
"激アツ演出きた"
"盛 り 上 が っ て き ま し た"
"須田即死不可避"
"そうこなくっちゃ!"
"う、うそおつ"
"どどどどうせ口だけだろ"
"アンチ涙目wwwww"
俺は自撮り棒を動かし、乗っている物をカメラに映す。
それは黒い三角形のボディをした『戦闘機』。これこそ堂島さんと権田さんに頼み込んで貸してもらったものだ。
"なにこれ!?"
"飛行機?"
"いやステルス機だこれ!"
"かっこe"
"見たことない機体だなこれ"
"これ魔導研究局が作ってる最新機体じゃん、完成したんだ!"
"てかなんでステルス機にあぐらかいて乗ってるの?w"
"答え、シャチケンだから"
俺が乗っているこの戦闘機は魔導研究局と防衛省が共同開発した最新鋭ステルス機『
動力に最新式の『魔導エンジン』を搭載し、その速度、燃費、ステルス性、機動性などは今までのステルス機を遥かにしのぐ。
装甲にもダンジョン由来の素材を使っているため、非常に硬い。ある程度のモンスターの攻撃にも耐えられるだろう。
そしてなにより凄いのはその『ステルス性』だ。
一般的なステルス機と同じくレーダーに映りづらいのはもちろん、魔素の探知にも引っかからない仕様となっている。
そのおかげでモンスターに探知されることなく移動することが可能なのだ。
他にも色々な機能があり、モンスターを相手にしても十分に戦える性能をしている。
「このステルス機『月影』は今回移動用にお借りしました。月影は都内であればどこでも
"まじかよ"
"さすがシャチケン!"
"勝ったなトイレ行ってくる"
"須田涙目www"
"勝利BGMかけるか"
"うおおおおおお"
"アンチくんもこれにはお得意の手のひら返しするしかないなw"
"須田ァ! 観念しろォ!"
「モンスターが池袋に現れたのは私の耳にも入っています。ですのでこれから向かぷっ」
突然ステルス機『月影』が加速し、俺の言葉は途中で途切れる。
凄い速さだ。風圧で顔が変な風に曲がっている感じがする。
"はっっや"
"いいタクシーやね"
"なんで上であぐらかいてるだけなのに落とされないの?"
"物理法則「もう諦めた」"
"諦めないで(´;ω;`)"
"筋斗雲かな?"
"心が社畜じゃないと乗れないのか"
"なんでドローンじゃないのかと思ったけど、これが原因か"
"確かにドローンじゃついていけなさそうw"
『……そろそろ目標地点です。着陸しますか?』
耳につけている通信機から、パイロットの声が聞こえる。
速いな。もう着いたのか。
地上で思い切り走ると街を壊してしまう可能性があるから、こうやって空路で運んでもらえると凄い助かる。堂島さんと権田さんに感謝だな。
「いえ、着陸の必要はありません。減速だけしてもらえればこちらで勝手に降ります」
『……分かりました。健闘を祈ります』
池袋の上空に着くと、月影は減速する。
俺は空から地上を眺め、モンスターが現れた場所を目視する。
「ん、あそこか」
"なんで見えるねん"
"両目視力30くらいありそう"
"マサイ族「こわ、引くわ……」"
"社畜アイなら超視力"
"てかパラシュートなさそうだけど、どう降りるの"
"あ"
"もしかして"
目標地点に到達した俺は、ポケットからドローンを取り出し起動する。
そして配信カメラをスマートフォンからドローンに切り替えると、月影の上をころりと転がりその上から落下して空中に身を投げる。
"落ちた!"
"ひいいっ!"
"タマヒュン過ぎるw"
"いきなり落ちるな!"
"心臓に悪い……"
"俺高いところだめなんだよ……うぷ"
"酔い止めキメてる俺に隙はなかった"
"俺も"
"私も"
"常識でしょ"
"訓練された視聴者が多いな……w"
落下しながらコメントを確認してみたけど、結構盛り上がっている。
これならきっと須田も視聴していることだろう。
そう、今回配信しているのはそれが狙いだ。俺が配信していれば、須田の目は俺に向く。他に被害が出る確率も低くなる。それに挑発するようなことを言えば、姿を見せる確率も上がるだろう。
これは俺と
『ギュアアアア!!』
考え事をしていると、下から恐ろしい鳴き声が聞こえてくる。
そちらに目を向けてみると、そこには赤い鱗の飛竜、レッドワイバーンがいた。
『ガアッ!』
レッドワイバーン大きな口を開き、俺を飲み込もうとする。レッドワイバーンはAランクのモンスター、まさか高ランクのモンスターまで出るとは、思ったよりも事態は重そうだ。
「急いだほうが、良さそうだな」
俺は落下しながら剣を構え、居合を放つ。
『ガ!?』
チン、という音と共に剣が鞘にしまわれると、レッドワイバーンが縦に両断される。
邪魔者がいなくなった俺は数度空中を蹴って減速し、地面に着地する。すると今まで暴れていたモンスターたちがこちらを見てくる。
『ルルル……』
『ギャウ!!』
新しい獲物を見つけ、高ぶったように鳴くモンスターたち。
俺は奴らを見ながら、腰に差した剣に手をかける。
「さて、
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