第8話 田中、喧嘩するってよ

「おじゃまします」


 特別会議室と書かれた部屋の中に入る。

 部屋の中には堂島さんとスーツ姿の男性がいた。

 この人、ニュースで見たことがあるな……あ、そうだ。確か警察の偉い人だ。堂島さんと須田のことで話していたのか。


「よく来たな田中。こやつは警視総監の権田だ」

「君が噂の……会えて光栄だ」


 権田と呼ばれた強面の男性は立ち上がると、こちらに手を出してくる。


「田中誠です。よろしくお願いします」


 緊張しながらも、手を握り返して握手する。

 ごつごつした強い手だ。この人もきっと強いんだろう。


 握手を交わした後、俺と権田さんは席に座る。

 すると堂島さんが俺のことを見ながら尋ねてくる。


「ワシらは都内各所に腕利きの覚醒者を配備し、モンスター出現に備える。そしてそれと並行して須田の奴の行方を追う。田中、お主はどうするつもりじゃ?」

「決まってます。俺は須田を叩きます」


 俺はそう即答する。

 これは決めていたことだ。


「須田の目的はお主じゃ。みすみす須田の前に姿を現すのは奴の目論見通りになってしまうのではないか? ワシらに任せてどこかに身を隠していてもいいんじゃぞ」

「……確かに、普通に考えれば俺が出張る必要はないのかもしれません。犯人の要求を飲むのは普通愚策ですからね」


 そこまで言って、俺は「ですが」と付け加える。


「これは俺と須田の『喧嘩』です。だったら俺が出ないわけにはいかないでしょう。退職した時、中途半端に分かれたからこんな風にこじれてしまったんです。今度こそ俺はあいつとの因縁を終わらせなきゃいけません」


 退職した時、俺はあいつを一発殴った。

 俺はそれですっきりしたけど、あいつはそれで逆に怒りを募らせてしまった。これは俺の落ち度だ。あの時お互いの溜まった『毒』を全て吐き出すべきだった。


「たとえ堂島さんに止められても、俺は行きます。勝手なことを言っているのは承知してますが俺も出るのを認めてください」


 俺は頭を下げてそう頼み込む。

 すると堂島さんはしばらく考えるように目をつぶったあと、目を開いて俺を見る。


「『これは俺の喧嘩』か。ふふ、あの時の若造がいつの間にか一端のおとこになりおった。いいじゃろう、好きに暴れるといい」


 堂島さんは嬉しそうに笑いながら、俺の言葉を飲んでくれる。

 ありがたい。世話になっている堂島さんと敵対はしたくないからな。


「しかしいいのか龍一郎。また国会で詰められるんじゃないのか?」

「はっ、どうせなにしても文句垂れてくるんじゃ。だったら好きにやった方が得というもんじゃ」

「なるほど、まあお前が納得しているならそれ以上は言わない。好きにやるといい」


 警視総監の権田さんはそう言うと俺に目を向けてくる。


「君が手を貸してくれるなら百人力、こちらとしてもありがたい。人手はいくらあっても足りないからな。警視庁わたしたちでできることがあるなら力になる、遠慮なく言ってくれ」

「そうですか? じゃあ……」


 俺は権田さんと堂島さんにあることをお願いする。

 すると二人は驚いた後に考え込み……そしてそれを許可してくれる。


「少し時間をくれれば……可能だ。しかし本当にそんなことができるのか?」

「はい。やったことはありませんが可能かと」

「分かった。それでは早速手配しよう。龍一郎もいいな?」

「問題ない。アレ・・のテストはしておきたかったからこっちとしても丁度いいわい」


 無事二人の協力が得られた俺は、心の中でガッツポーズをする。

 まさかこんなにすぐ許可が出るなんて。言ってみるものだな。


「待ってろ須田。お前の『喧嘩』、ちゃんと買ってやるからな」


 俺は幼馴染みの顔を思い浮かべながら、そう呟くのだった。

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