第6話 田中、ニュースを見る
『都内で起きたモンスター騒動について、街では不安の声が広がっております。政府はこの事件について現在調査中であると回答しており、いち早い原因の究明と対抗策の提示を――――』
テレビでどのチャンネルをつけても、今日のモンスター騒動のことについて話している。
ネットでも同じだ。モンスターが街で暴れている動画はかなりの数が出回っていて、みんなそれを見て悲しんだり慌てたり怒ったりしている。
もう陰謀論もいくつも出回っていて、このモンスターたちは政府が作ったものとまで言っていいる人もいる。しばらくこの話題が落ち着くことはないだろう。
家には俺の他に、星乃とリリシア、ダゴ助がいるが、みんな複雑そうな顔をしている。
せっかく海底ダンジョンの件が片付き、落ち着けるかと思った先にこれだ。
「……ただいま」
家の扉が開き、天月が中に入ってくる。
ずっと今回の事件の対応に追われていたんだろう。その顔には疲れが残っている。
「おかえり。どうだった、なにか分かったか?」
「いえ、なにも。モンスターの出現地点をどれだけ調べてもダンジョンは見つからなかったわ。魔物災害が起きた時に発生する特殊な魔素も観測されなかったし……対策の立てようがないわ」
「そうか……」
やっぱり魔物災害じゃなかったか。
魔物災害が起きていたら被害はあんなものじゃ済まないだろうから、俺も違うとは思っていた。しかしだとしたらなぜモンスターが外にいたんだ? 謎は尽きない。
「ひとまず魔物対策省は警視庁と連携し人員を出し合い、街に腕利きの覚醒者を配備することになったわ。私と凛もそっちに回されると思う」
「そうか……手が必要だったら呼んでくれ」
「助かるわ。正直人手はいくらあっても足りないくらい。大手のギルドにも声をかけて人員を融通してもらうつもりよ」
そこまでか。と俺は驚く。
まあでもモンスターがどこに現れるか分からない以上、人手はいくらあっても足りないか。
日本中の覚醒者を集めても都内全域をカバーするのは不可能だろうからな。
「それにしても最初のモンスター出現地点に貴方がいるとはね……狙われているんじゃないの?」
「よしてくれよ。そんなわけないだろ。なんの得があって狙われなきゃいけないんだ」
他人とは敵対しないように生きてきたつもりだ。
Dチューバーとして調子がいいことを逆恨みしている人はいるかもしれないけど、さすがにそんなことでモンスターをけしかけてきたりは……してないよな? 不安になってきた。
「まあまずは原因の究明だよな。いったい誰がどうやってこんなことを……」
『速報です。先ほど動画投稿配信サイト「Dチューブ」にて、モンスター騒動の犯人と思われる人物の動画が公開されました』
「え?」
突然の言葉に俺はテレビの方に視線を向ける。
犯人が動画を公開しただって? いった誰がなにを話したんだ? 俺たちは釘付けでテレビを見る。
『その内容がこちらです』
テレビに映し出されるその動画。
それを見た俺は目を見開き、驚く。
『あー、聞こえるか? くくっ、俺のプレゼントは気に入ったか? 田中』
なんとそこに映っていたのは、俺のかつての上司にして幼馴染みの須田明博だった。
『驚いたか田中? 残念だったなあ、俺をブタ箱にぶち込めたと思ってたのによう。悪いが俺はお前の卑怯な手には屈しねえ。こうしてまたお前の前に戻ってきてやったぜ』
画面越しに俺を睨みつけながら、須田は言う。
最初は偽物かもしれないと思ったけど、この高圧的な感じと救いようのない他責思考は間違いなく須田だ。
見ているだけで過去を思い出し胃がキリキリ痛むのだから、絶対に本物だろう。
『聞いたぜ田中。お前俺がいない間ずいぶん調子良かったみたいじゃねえか。俺の真似事してギルド作ったり、嫁さんを三人も作ったり、配信者として成功したりよう……役立たずのくせにうまくやったじゃねえか』
「…………」
須田の声には、強い憎しみがこもっている。
どうやら勾留されている間も、俺に対する怒りがどんどん積もり熟成されていたみたいだ。
確かに須田が逮捕されたのは俺が発端だ。しかし原因は全部あいつにあるはずなんだが……なんでこんなにも俺を強く憎んでいるんだろうか?
須田は平等にパワハラ社長であり、他の社員にも当たりは強かった。
しかし今にして思えば、それも俺よりはマシであった。あんなにもブラックに働かされていたのは俺くらいだ。事実仕事で怪我をする社員はいても、死ぬまで働かされた社員はいなかった。
死の危険を冒しまくって働いていた社員は、俺だけだった。
『これは復讐だ。俺はお前を許さねえ。大勢の目の前で無様な姿を見せつけ、許しを請わせたあとに惨めに殺してやる。精々覚悟するんだな』
そこまで言って、動画は終わる。
しばらくの沈黙のあと、天月が俺に話しかけてくる。
「誠、今のって……」
「ああ、どうやらモンスターは須田の差し金みたいだな」
どうやってモンスターを調達したのか。どうしてそこまで俺に固執するのは分からない。
しかし俺が目当てである以上、俺が解決しなきゃいけない。
「分かったよ須田。
俺は取り返しのつかないところまで落ちぶれてしまった幼馴染みの顔を思い出しながら、そう呟くのだった。
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