第5話 田中、モンスターに出会う

「きゃあああ!」

「な、なんでモンスターがいるんだよ!」


 突然現れたモンスターに、辺りは騒然となる。

 モンスターは普通ダンジョンから外に出ない。だからこそダンジョン探索は事業として成り立っている。もし全てのモンスターが外に出るようになっていたら、ダンジョンは見つけ次第壊すことになっていただろう。


 ……しかし、妙だ。

 モンスターがダンジョンの外に出る『魔物災害』は、ダンジョンが出現しないと当然起きない。

 しかしこの近くにダンジョンはないはずだし、近くにダンジョンが生まれたようにも見えない。ならこのモンスターたちはどこから現れたんだ?


 気にはなるけど、今はそれを考えている暇はない。一刻も速くモンスターを倒せなくちゃいけない。

 しかし駆け出そうとして、俺は今リリシアと一緒にいるんだと思い出す。彼女を置いて行くのは危険だ。どうすればいいと悩んでいると、リリシアが俺の服の端をつかむ。


「なにをしているタナカ! 共にみなを救いに行くぞ!」

「……! ああ、そうだな」


 リリシアは守ってもらうつもりはなく、むしろ助けに行くつもりであった。

 それもそうか。こいつは仲間の仇を取るために魔王に挑む勇気を持っている。俺は自分の浅慮さを反省し、リリシアと共にモンスターのもとに駆け出す。

 そして走りながらスーツのポケットから剣を取り出し、腰に装着する。一応剣を持ってきておいて正解だったな。


「俺が切り込む。リリシアは周りの人を守ってくれ」

「うむ、任された!」


 リリシアの返事を聞いた俺は、モンスターが集まっている地点に踏み込み、剣を振るう。


「橘流剣術、ひらめき

『ギャ……!?』


 幾重もの剣閃が煌めき、瞬く間にモンスターたちは切り刻まれていく。

 現れたモンスターたちはどれもDランクやEランクの低級モンスター。普段Sランクをい相手にしている俺からしたらたいした相手ではない。


 しかし今回はいつもと違い市街地が舞台。周りには壊してはいけない建物や、絶対に守らなきゃいけない市民がいる。

 大技は使わず、最低限の被害に抑えながら、迅速に倒す。

 大変だけどやるしかない。俺は警戒するモンスターたちを相手に挑発する。


「どうした。俺は一人だぞ。それだけいて社畜一人倒せないのか……?」

『ギャギャ……ギャウ!』


 挑発に乗ったゴブリンたちが棍棒やナイフを振り上げ襲いかかってくる。

 見ればリリシアは他のモンスターを魔法で倒し、逃げてる人を助けている。


 心強い、これならモンスターを倒すことに集中できる。


「我流剣術、またたき十連じゅうれん


 瞬く間に放たれる、十の剣閃。

 居合を一瞬にして十回放ち、モンスターたちを次々に倒していく。


 中には車の下に隠れるモンスターもいるが、骨格を変えて平べったくなることで車の下に入ってちゃんと斬る。一体も逃しはしない。


「よし、と」


 周囲にいたモンスターをあらかた斬り終え、足を止める。


「見た目も強さも普通のモンスターと変わらないけど……妙だな」


 俺は消えていくモンスターの死体を見ながら呟く。

 普通、モンスターを倒すと素材を残す。強いモンスターだと全身が残り、なにも残らないことなんてない。


 しかし今倒したモンスターたちはなにも残さず完全に消滅・・してしまった。後片付けは楽だけど……いったいなぜだ?


 そう不思議に思っていると、少し離れたところから声が聞こえる。


『グウウ……ガアッ!!』

「きゃあ!!」


 目を向けるとそこにはモンスターに襲われる女性がいた。

 あのモンスターはビッグファングか。名前の通り大きな牙を持つ狼だ。ランクはCとそれほど強くはないが、当然覚醒者ではない普通の人では太刀打ちできない相手だ。

 当然俺なら一太刀で倒せる相手であるが、結構距離が離れている。走ってギリギリ間に合うかどうか……。


「タナカ、わらわに任せろ!」


 市民の避難を終えたリリシアが俺のそばに来る。

 どう任せるのかは分からないが、俺はリリシアの言葉を信じる。


「ああ、頼む」


 そう言うとリリシアは「うむ!」と嬉しそうにうなずき、全身から魔素を放ち『魔法』を発動する。


「風よ! 起これ!」


 すると突然突風が巻き起こり、俺に向かってくる。

 なるほど、そういうことか。俺はリリシアの意を汲み、風が当たる瞬間地面を蹴る。いつもの速度プラス魔法の風で加速した俺は一瞬でビッグファングに肉薄する。


「そこまでだ」

『ガア!?』


 ビッグファングの目が俺を捉えたと同時に、剣が抜かれビッグファングの首が切り落とされる。そしてそれと同時に襲われていた女性を抱きかかえ、その場を離れる。


「きゃあ!?」


 当然女性は驚き、体を固くする。

 俺は彼女をモンスターが現れたところから少し離れたところまで運び、解放する。


「ここなら大丈夫です。気をつけて避難してください」

「え、あ、はい……って、シャチケンさん!? 凄い! 私ファンなんです! きゃー!」


 大学生くらいのその女性は、さっきまで怯えていたのに、もうそんなこと忘れたように浮かれている。

 た、たくましい。


「あの、写真だけ一枚いいですか?」

「……分かりました。それだけ撮ったらすぐ避難してくださいね」


 他にモンスターもいなさそうなので、それを承諾する。


「ありがとうございました! 今日のことは忘れません!」


 写真を撮った彼女はお礼を言うと去っていく。

 するとそれと同時にリリシアがこちらにやって来る。


「タナカ! 大丈夫であったか!?」

「ああ、リリシアのおかげだ、ありがとう」

「ふふん、わらわは頼りになるであろう」


 胸を張るリリシア。

 確かに彼女のおかげで助かった。

 彼女の使う魔法はこっちの世界の人間の使う魔法とは仕組みが違うようで、リリシアは多種多様な属性の魔法を使うことができる。

 なので応用力がかなり高いのだ。


「おかげでなんとかなった……が、これからが大変そうだな」


 見る限り人的被害はなさそうだ。

 しかしあの一瞬で結構道路や建物に被害が出てしまっている。


 モンスターに襲われ恐怖を覚えた人もいるだろう。

 原因究明も含めて、これからが大変そうだ。

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