第8話 田中、邪神と交流する

『りりたそ♪ りりたそ♪』


 邪神はリズミカルにリリの名前を呼びながら、オレンジ色に光る円柱を振る。

 それを見たリリは「り……」と困惑している。

 その気持ち、分かるぞ。いったいこれはどうなっているんだ。シュール過ぎて訳わからん。誰か説明してくれ。


"は?"

"どうなってんの?"

"草"

"シャチケンにボコられておかしくなった?"

"てかりりたそって言ってるよな? りりたんのこと知ってるの?"

"あ、あの円柱がなにに似てるか分かった。サイリウムだ"

"サイリウム? そんなわけあらへ……ほんまや"

"ガチで草"

"推しの名前を呼びながらサイリウムを振るとかただのオタクやんけ!"

"邪神はおれらだった……?"

"[悲報]邪神、オタクだった"

"急に親近感わいたなおい"

"これもうキ=モヲタだろ"

"サイリウムしては殺傷力が高すぎる"


 コメントを読んだ俺は納得する。

 そうか、この高熱の円柱はサイリウムだったのか……って、分かるか!

 なんで邪神がサイリウム持ってるんだよ。


「そういえば前にダゴ助が邪神の中にリリのファンがいるって言ってたけど……まさかこいつがそれとはな」


 しかしどうしたもんか。

 リリを知っているということは、こいつもおそらくダンジョンで生まれた存在ではなく、異世界から来た生き物だ。

 完全に敵対しているならそれでも倒していいと思うが、なんか味方にできそうな気がする。

 ううむ……これは難しい問題だ。


 悩んでいるとネロ博士が話しかけてくる。


「田中殿、悪いことは言わない。邪神あれと分かり合うことなど不可能だ。今のうちに始末しておいた方がいい。手遅れになっても知らないぞ」

「ご忠告ありがとうございます。しかし私はそうは思いません。この子とも仲良くやれてますから」


 そう言って俺は胸ポケットに収まっているリリを人差し指でなでる。

 あっちの世界では彼らと相容れないのが常識なのかもしれない。だけどリリやダゴ助とも仲良くなれたんだ。邪神こいつも例外じゃないかもしれない。


「……そうかい。そこまで言うなら好きにするといい」


 俺の言葉を聞いたネロ博士は呆れたようにそう言うと、そっぽを向く。

 よし、それじゃあコンタクトを取ってみるとするか。


「えー、その、なんだ。リリを応援してくれてありがとう。俺はリリの保護者をやっている田中誠だ、よろしく」


 そう言って一応名刺を渡してみる。

 すると邪神は口元の触手を伸ばして、名刺を受け取る。ねばねばが手について「うっ」となるが我慢だ。これ拭いたら落ちるかな……?


"邪神に名刺渡してて草"

"しかも素直に受け取るんかい!"

"面 白 く な っ て き ま し た"

"名刺「ごめん、俺死んだわ」"

"名刺くん……いい奴だったよ……"

"ていうか文字読めんの?w"

"でもなんか名刺を読んでるよ"

"文字が書かれてることを理解してそうだな"

《ダゴ助》"ウンコしてる間に邪神様と名刺交換してるのなんで????"

"ウンコしてんじゃねえよタコ!"

"間が悪すぎて草"


 邪神はしばらく文字を凝視したあと俺を見て、なにかに納得したように手をぽんと叩く。

 そして俺にずいと近づくと、巨大な手で俺の手を握ってくる。


『りりたそ、ぱぱ!』

「え、パパ? 違うと思うが……まあ似たようなものか? そうそう、いえすいえす」

『いあ! りりぱぱ!』


 邪神は嬉しそうに俺の手をぶんぶんと振る。

 手探りだけどコミュニケーションは上手く取れているみたいだ。

 どうやらリリのことを動画で見ていたから俺のことも知っているみたいだ。今まで攻撃してきたのは、俺がその人物だということに気がつかなかったんだろう。

 もっと早く気がついてほしかったけど、俺もモンスターの顔の見分けはつかないし仕方ないか。


"会話になってて草"

"さす社畜"

"なんでできんだよww"

"パーフェクトコミュニケーション"

"落ちたな"

"まさか邪神まで攻略するとは恐れ入る"

《ダゴ助》"おっかねえ邪神様があんな風になるなんて信じられねえ……さす兄貴(畏怖)"

"この魚人ノリノリでコメ打ってるな"

"ネット慣れしすぎや"

"本当に最近インターネット触った?w"


邪神は喋るのは苦手みたいだけど、会話はなんとかなった。

 色々話を聞いてみた結果、どうやらこいつもダゴ助と同じく普通に暮らしていたら突然このダンジョンに飛ばされたみたいだ。

 いつも見ていた動画も見れなくなって落ち込んでいたところに俺たちが来て、驚いて攻撃してしまったらしい。気持ちはわかるがあんなに本気で殺しに来ることないのにな。


"ドジっ子やね"

"邪神、萌えキャラだった?"

"すでに萌えキャラ化してる作品あるだろ"

"日本にはhentai紳士が多すぎる"

"まさか邪神くんも自分が萌えキャラ化してるとは思わないやろね(ニッコリ)"

"てかコミュニケーション取れたのはいいけど、これからどうすんだ?"

"確かに。魔物災害が起きるならどうにかしないと"

"ほんまや。忘れてた"


 そうだ、もともとこの最下層に来た理由は、魔物災害を食い止めるためであった。

 その為にダンジョンコアを破壊して、このダンジョンを壊す必要がある。


 ダンジョンコアはダンジョンの最下層にあり、ダンジョンボスの体内にあることが多い。他にも普通に置かれているパターンなどもあるが、いずれにしてもボスが守っていて手を出すのは難しい。


 今回はどのパターンか調べる必要がある。邪神をどうするかはそれからだ。


「えっと、ダンジョンコアはどこにあるか知ってるか?」

『るる?』


 俺の問いに邪神は首を傾げる。

 ん? もしかして知らないのか? まあ体内にコアができてたら気がつかないか。でもどうやって調べたらいいんだ?


「先生。迷宮解析機アナライザーにはダンジョンコアを探す機能もあります。それを使ってください」

「お、そうだったのか。早速使ってみるとしよう」


 迷宮解析機アナライザーを出して、中の設定をいじくる。

 えーっと……お、『ダンジョンコア探知サーチモード』ってのがあった。これか。

 そのモードに変更し、迷宮解析機アナライザーを邪神に向けてみる。すると、


「……ん?」


 迷宮解析機アナライザーの画面には『反応ナシ』と表示される。

 邪神の体は大きいから、全部スキャンできなかったのだろうか。そう考えた俺は邪神の隅から隅までスキャンしてみたが……ダンジョンコアは発見できなかった。


「まさか、こいつボスじゃないのか?」


 そう考えれば辻褄が合う。

 こいつはたまたま最下層に飛ばされただけで、このダンジョンとは無関係ということだ。つまり前回のダンジョンで言うと魔王ルシフじゃなくてダゴ助ポジションということ。


 これはマズい。

 このままじゃ魔物災害が起きてしまうぞ……

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