第7話 田中、パリィする

『りぃ……だぞぉ!!』


 二本の謎の円柱を取り出した邪神は、それを激しくぶつけ合う。

 すると円柱はジュウ! と音を立てながらオレンジ色に発光する。円柱は謎の技術により高熱を放っているようで、円柱近くの空気が揺らめいている。


"なにあれ!?"

"武器?"

"クトゥルフが武器使うなんて聞いたことねえぞ"

"まあ神話とモンスターには微妙に違いがあることも多いから……"

"熱そう(小並感)"

"えぐい武器持ってるな"

"でもなんかあの武器見たことある気がするんだよな……"

"俺も。デジャブかな"


『るあああっ!!』


 邪神はオレンジ色に輝く円柱を俺に向かって振り下ろしてくる。

 水面を蹴って跳躍し、それをかわすと円柱が水面を激しく叩く。見た目通りその円柱は高熱を帯びているようで、水にぶつかるとジュウッッ!! と音を立てて水を蒸発させる。


「当たったら熱そうだな……」


"熱いで済むのか(呆れ)"

"普通の人間なら溶けてなくなるぞw"

"まあ田中は人間やめてるから……"

"シャチケンからしたらストーブくらいの熱さかもしれん"

"てかあの武器やばすぎるな。もはや兵器だろ"

"まじであの武器なんなんだ?"


 邪神はその後も謎の円柱を振り回し攻撃してくる。

 動きは単調だけど、速いせいで意外と近づきづらい。当たらずに接近するのは少し難しそうだ。仕方ない、正面から行くとしよう。


『るるおぉっ!!』


 邪神は二本の円柱を振り上げると、俺めがけて同時に振り下ろしてくる。

 その一撃を、俺は待っていた。

 二本の円柱が俺に当たるその瞬間、ここだというタイミングで俺は剣を振り円柱をはじき返す。


「橘流剣術、鸚鵡返おうむがえし!」


 パキィン! という音と共に、円柱が物凄い勢いで跳ね返る。

 そして円柱は来た軌道を戻り、邪神の頭部に命中する。


『ぐるぅ!?』


 じゅう! と音を立てながら円柱が邪神の頭部を焼く。

 うわ、痛そうだ。当たらなくて良かった。


"跳ね返した!?"

"これもうパリィだろ"

"パリィってゲームじゃなくても使えたんだ……"

"シャチケン、逆にお前はなにができないんだ"

"めっちゃ痛そう"

"いけシャチケン!"


水面を蹴り、苦しそうに悶える邪神に接近する。

 そして鞘に収めていた剣の柄を握り、高速で剣を抜き放つ。


「我流剣術、瞬 《またたき》」


 剣閃がはしり、高速の居合が放たれる。

 その一撃は邪神の胴体を袈裟斬りにし、深い傷をつける。


『る、お……っ!』


 邪神は苦しそうに呻くと、その場で倒れる。そのまま沈むかと思ったが、倒れた先が浮島だったため、その浮島に倒れる形となった。


「倒し……いや、まだ息があるのか。凄い再生力だな」


 邪神はまだ生きているようで、少し動いている。放っておいたら死にそうだけど、一応近づいて様子を見てみるか。

 そう思いその浮島に行くと、堂島さんたちもやってくる。


「やったな田中。お主また強くなったんじゃないか?」

「さすがです先生! 邪神でもかなわないなんて、やっぱり先生は凄いです……!」


 堂島さんと凛が褒めてくれる。

 それは嬉しいけど、俺は少し妙に感じた。こいつのランクはEXⅢのはず、それにしては少々『弱い』と感じた。

 この前戦った魔王と比べると結構差があるように感じる。あいつと同ランクとは思えない。


 ランクが間違っているのか……それともなにかしらの理由で疲弊している・・・・・・のか。まあ考えたところで知りようはないんだけど、気にはなるな。


「素晴らしい! 人の身で邪神を下してしまうとは! ううむ、やはり実験じっけ……研究したい。少しだけでいいから切開させてくれないか?」


 堂島さんに背負われてやって来たネロ博士がはあはあ言いながら近づいてくる。

 なんだかぞくっとした。この人苦手かもしれない。


"博士ぶれないなw"

"この人実験とか言い出しましたよ"

"まあシャチケンの体がどうなってるのかは気になるww"

"転生したら最高の実験体が目の前にいた件"

"ラノベかな?"

"切開しようにも普通のメスじゃ田中の肌に傷をつけることもできないんだよなあ"

"エクスカリバークラスじゃないとな"

"聖剣で切開するのシュールすぎるだろ"


「まあ実験は置いておいて……早めに邪神にとどめを刺しておいた方がいい。私の世界でもこの者たちは異端の存在。決して分かりあうことのできない者たちなのだ。特に邪神は世界混沌をもたらす邪悪なる存在だ」


 ネロ博士は苦しそうに横たわる邪神を見ながら、そう吐き捨てる。

 どうやら異世界で邪神やダゴ助たちはかなり嫌われた存在みたいだ。リリシアもダゴ助やリリを見て最初はビビってたしな。

 でもその考えに関して俺は懐疑的だ。確かに見た目は変わっているけど、絶対に分かりあえないことはないんじゃないか?


『たそ……』


 なにか呟いている邪神に近づく。

 すると邪神は目だけを動かし俺を見てくる。おっかない目はしているけど、知性を感じる。やっぱり話が通じるんじゃないかと思っていると胸ポケットがもぞもぞと動く。


「りり?」


 ぴょこ、とポケットから顔を出したのはリリだった。

 どうやら今まで寝ていたようで眠そうな目をしている。そういえばご飯の時にも出てこなかったな。ぐっすり寝ていたようだ。


"リリちゃん!"

"りりたそ~~"

"たすかる"

"かわいい!"

"りりたそかわいいよはあはあ"

"やっぱりりりたその人気は凄いw"

"リリちゃんは万病に効く"


 相変わらず凄い人気だ。リリの人気は凄く、リリの個人(?)チャンネルの登録者はついに1000万人を突破した。

 ご飯動画をSNSにあげれば秒でバズるし、最近は人気が抜かれるんじゃないかと内心ひやひやしている。

 もし俺の人気が落ちても、リリの人気は落ちそうにないので養ってもらう未来もあるかもしれない。


『るあ……?』


 リリが出てくると邪神の視線がリリに向く。

 そういえばリリの種族はショゴス。こっちもクトゥルフ神話に出てくる生き物だ。

 なにかしら変わった反応を示すんじゃないかと思っていると……突然邪神は大きく口を開き、


『り、りりたそーーーーー!!』


 と、鼓膜が破裂しそうなほど大きな声を出した。

 ……は? こいつ今「りりたそ」って言ったか? いったいどこでリリのことを知ったんだ? てか言葉分かるのか? 


 いったいなにがどうなってるんだ……。

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