第5話 田中、謎のモンスターを調べる

 水中より現れた謎のモンスター。

 そいつに見覚えのない俺は、ポケットから迷宮解析装置アナライザーを取り出しそいつに向ける。堂島さんから貰ったこれは、モンスターの放つ魔素からそのモンスターを特定し、その情報をデータベースから呼び出すことができる。


 ピピ、という音と共に解析が終わり、文字が映し出される。

 そこにはこう書いてあった。


・クトゥルー ランク:EXⅢ

 クトゥルフ神話に登場する邪神。

 非常に強力な精神汚染効果を持っており、近くに存在するだけで人を狂気に陥れる。戦闘の際は鋭い鉤爪と無限に再生する触手を用いる。

 生態、生活、思想などは全て謎に包まれており、人間と相容れることはないと言われている。

 政府特記:発見例なし


「クトゥルーっていうのか。なんか名前だけは聞いたことあるな」


 クトゥルフ神話といえばリリやダゴ助も登場する神話だよな?

 モンスターは色々な神話に出てくるものと似た存在のものが多いけど、最近はこの神話に出てくる生き物とよく出会う気がするな。なにか意味でもあるんだろうか。


"クトゥルフキター!"

"SAN値直葬不可避"

"とうとう来たわね"

"緑色の触手でそんな気はしてた……w"

"まじでシャチケン邪神と縁あるな"

"ていうか頭痛くない? 気持ち悪い……"

"精神汚染効果あるから気をつけろ。ショゴスやディープワンのより強いだろうからな"

"Dチューブは精神汚染効果対策されてるんだけど、それ突破してんの凄いな"

"気になるけど視聴断念するわ。悲しい"

"あとで対策済み切り抜きあがるだろうからそっち見な"

"気持ち悪くて胃がひっくり返りそうだけど気になるから見るは"

"やめとけw"


「なんかでっかいのが出てきたのう。あれがここのボスか」


 堂島さんたちがこちらにやって来る。

 どうやらクトゥルーが水上に出てきたことで触手の攻撃が一旦止んだみたいだ。肝心のクトゥルーは大きな目でこっちをじっと見ている。

 こちらの様子を窺っているみたいだな。


「みたいですね。ランクはEXⅢ、中々の強敵だと思いますよ」

「はあ……厄介じゃのう、このクラスが地上に出たら国が滅びかねん。ここで討伐しとかにゃならんな」


"ランクEXⅠのショゴスですら大都市をいくつも破壊したことあるからな……"

"それの二段階上ってやばくね?"

"地球がやばいレベル"

"マジで倒してくれ!"

"相手邪神ってことは一応『神』だよな? 神って倒せるの?"

"なに、こっちには社畜がついてるんだ"

"ほないけるか"

"シャチケン知らん人が見たら意味わからない会話で草"

"怖すぎるから本当になんとかしてくれ……!"

"田中がやらなきゃ誰がやる!"


「間違いない。あの邪神が魔力の循環異常を起こしている原因だ。あれを倒せば魔物災害は起こらなくなるだろう」


 堂島さんに守られているネロ博士が言う。

 本当かは分からないが、どっちみち戦うしかない。堂島さんには博士を守ってもらうとして凛は……結構辛そうだな。どうやら精神汚染効果を受けてしまっているみたいだ。


「大丈夫か凛?」

「はい……大丈夫です。戦えます」


 そう言うが明らかに顔色が悪い。ただでさえ魔物災害が起こると聞いてメンタルが不安定な状況だったんだ。無事じゃなくて当然だ。


"画面越しですらつらいんだからキツいよな"

"これに関しては平気なシャチケンと大臣がおかしい"

"田中の精神はブラック労働で鍛えられてるから……"

"それなにも感じなくなっただけじゃね?"

"たし蟹"

"ブラック労働は邪神より心を蝕むのか……"

"やっぱブラック企業ってクソだわ"


「いや、無理をするな。相手は強い、万全じゃない状態で戦える相手じゃない。堂島さんと一緒に博士を守ってくれ」

「先生、ですが……く……いえ。分かりました」


 凛はつらそうな表情を一瞬見せた後、普段の表情に戻り、言うことを聞いてくれる。

 役に立ちたいと思ってくれているのは分かるし、その気持ちは嬉しいが、だからといって無茶な戦いを許容することはできない。凛はまだまだこれから強くなる、焦って戦わせて、こんなところで失うわけにはいかない。


「さて、それじゃあやるとしますか」


 俺は凛たちから離れ、水の上に移動する。

 ちゃぽちゃぽと水面を歩きながら邪神の前に行き、その大きな体を見上げる。


「待たせたな。いつでもいいぞ」

『るるる……おおおっ!』


 邪神はおぞましい雄叫びを上げると、右腕を振り上げ殴りつけてくる。

 腰の入ったいいパンチだ。俺はその一撃をしっかりと見極め、右手を前に出し受け止めた・・・・・


 ずん、という重い衝撃が体に走る。さすが邪『神』と呼ばれるだけあってかなりの威力だ。

 純粋な腕力はあの魔王を凌ぐだろう。こんな上玉、めったに戦うことはできない。


 業務しごとなのは理解しているが……少し楽しくなってきた。

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