第17話 田中、タコ漁をする

"なにあのモンスター!?"

"タコ?"

"デカ過ぎんだろ……"

"あかん、怖すぎる"

"お、クラーケンじゃん。かなり珍しいモンスターだよ"

"強そう(小並感)"

"水の中って怖くて無理なんだよな……うぷ"

"あの大きさ、普通にビルくらいあるだろ"

"ひいっ、さすがに水中であれと戦うのは無理じゃない?"


 クラーケンは超巨大なタコの見た目をしたモンスターだ。

 そのランクは『S』。あのタイラントドラゴンとためを張る強さだ。


 だが冒険者にクラーケンとタイラントドラゴン、どちらと戦うかと尋ねたらほとんどの人はタイラントドラゴンを選ぶだろう。

 なぜならクラーケンは水中に生息するからだ。戦う時は必然的に水の中で戦うことになる。

 水中は息ができないし地上のように動くことができない。使える魔法は限られ武器による攻撃も弱体化してしまう。

 このような状態では地上で勝てる相手でも負けてしまうだろう。


『ルルル……』


 クラーケンはその虚ろな目で俺を捉えると、明らかに八本以上ある足を動かし俺に迫ってくる。どうやら昼飯が来たと思われているようだ。

 しかし残念ながら……昼飯は『お前』だ。


"シャチケン笑ってて草"

"こっちも怖い"

"『飯はお前だ』とか考えてそう"

"おかしいな、クラーケンがうまそうに見えてきた"

"さすがに食わないよな……?"

"ショゴスを食った男だぞ?"

"あ(察し)"

"本日の昼食が決まったようです"


 俺はイルカのように足を動かし、急加速する。

 ようやく見つけた大物だ。逃がすわけにはいかない。


"相変わらず速いな笑"

"人間魚雷なんよ"

"動きキモすぎるw"

"クラーケン逃げて!"

"剣持ったネクタイ海パン男が爆速でクラーケンに向かっていく配信が見れるのはここだけだなw"

"他にあってたまるか"

"改めて文字に起こすと意味分からんすぎる"


『ル!? ルアッ!!』


 クラーケンは驚いたような声を出した後、無数の足で俺を迎撃しにかかってくる。

 数は多いけど、スピードはそれほど速くない。俺は足と足の隙間を縫うように移動して接近する。


"マジで動きがキモい(褒め言葉)"

"クラーケンくん驚いてて草なんだ"

"そりゃネクタイ海パン男が剣持って突っ込んできたらビビる"

"確かにw"

"でもこれ大丈夫? さすがに足多くない?"

"いくらシャチケンでも水の中で捕まったらまずそうだけど……"


 俺の泳ぎを見て危機感を覚えたのか、クラーケンは必死に足を動かし俺を捕らえようとしてくる。

 四方八方から襲い来るタコ足たち。ここまで多いと避けるのも面倒だ。俺は手にした剣を振り、それらを迎え撃つ。


ばぶばばぶうべんぶぶ橘流剣術びばべび


 剣閃が奔り、タコ足がスパスパと斬られていく。

 クラーケンの表面はぬめっているので刃物が通りづらいが、まあコツさえつかめば斬るのも難しくはない。一気にえいと斬るのがコツだ。


びぶぼいくぞ

『ルアッ!?』


 タコ足を突破した俺は、更にクラーケンに肉薄する。

 確かこいつも再生能力がかなり高いモンスターだったはず。ちょっとやそっとの傷では倒すことはできない。

 狙うべきは目と目の間。普通のタコと同じでクラーケンもそこが急所なのだ。


『ルルルアッ!!』


 クラーケンは危機を感じ取ったのか、大量の足を俺の前に盾のように展開する。しかしもう狙いはつけてある。多少視界を塞がれた程度では、俺の攻撃を止めることはできない。

 俺は剣を両手で強く握り、クラーケンめがけて振り下ろす。


ばぶうべんぶぶ我流剣術ぼうべん剛剣ぼぶぶばび万断ち


 ズン!! という轟音と共に、水が割れる・・・

 俺の放った衝撃波は水だけでなく、クラーケンの足、そしてその裏で隠れていた胴体をも一緒に両断した。


"うお!?"

"ひいっ"

"びっくりした笑"

"なにこれ"

"海って割れるんだな……"

"クラーケンくん真っ二つで草"

"タコって目と目の間が急所だからそこ狙ったのかな?"

"いやもうこれ急所とか関係ないだろ"

"確かに……w"

"相変わらず力やばすぎる"

"パワー!"


 真っ二つになったクラーケンは、さすがに絶命し動かなくなる。

 ふう、これだけ大きければ食いでもある。いいおみやげができたな。



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