第18話 田中、クラーケンを調理する

「ふう、大漁大漁」


 無事ダンジョン漁に成功した俺は、水から上がる。

 するとすぐに凛が近づいてくる。


「先生! 大丈夫でしたか?」

「ああ。それよりほら、たくさん獲れたぞ」


 俺は地上に今回の穫れた獲物を放り投げる。

 海竜シーサーペントに、海の化け物クラーケン。どちらも珍しいし味もいい。いい獲物が見つかって良かった。


「獲物って……これクラーケンじゃないですか! Sランクの中でも高い戦闘力を持つ上に目撃証言も少ないモンスター……それを一人で倒してしまわれるなんて……」


"お、引いたか?"

"さすがの凛ちゃんも引くレベルか"

"まああの短期間でこれを仕留めたらねえ"

"離婚の危機だなw"

"いや、ちょっと待て"


「なんて強いんでしょう……さすが先生です……♡」


"ズコー"

"惚れ直してて草"

"知ってた"

"戦闘民族の嫁も戦闘民族だなw"

"凛ちゃんはシャチケンにタコ負けして惚れたってなにかのインタビューで見たから、そりゃ強いところが好きだよな"

"もうやだこの夫婦"

"末永く爆発しろ"

"目がハートになってますよ"


 凛から好意の波動のようなものを感じる。どうやら幻滅されずに済んだみたいだ。

 わざわざ潜って獲ってきた甲斐があるというもんだ。


「おい田中! 釣り勝負をしてたのに潜って捕るのは卑怯じゃろ!」


 今まで釣りをしていた堂島さんが近づいてきて抗議してくる。

 まあ確かに凛によく見られるためとはいえ、大人げなかったかもしれない。とはいえそれを認めたらまたうるさそうだな。はぐらかすとしよう。


「釣り勝負をした覚えはありませんよ。それよりほら、時間がもったいないですから調理しましょう。手伝って下さい」

「あ、おい! まだ話は終わっとらんぞ!」

「まあまあ。堂島さんはクラーケンの足を食べやすい大きさに切ってて下さい」

「なんでワシがそんなことを……」

「それは残念ですね、クラーケンのぬめぬめした足を上手く切れるのは堂島さんくらいしかいないと思ったんですが……」

「……む、そうだったのか。ふん、ならしょうがない。こんなもん簡単に切り分けてやるわい!」


 堂島さんはそう言うと包丁でクラーケンをスパスパと切っていく。

 中々の手さばきだ。任せて正解だったな。


"大臣ちょろ過ぎて草"

"このおっさん、ツンデレすぎる"

"普通に包丁さばきプロ並で草"

"いいように使われてる……"

"大臣も料理楽しそうだしwin-winでしょ"

"こんなにちょろくて日本は大丈夫か?笑"

"まあ堂島大臣は気に入らない相手にはちょろくないから大丈夫でしょ"


 堂島さんがクラーケンの下処理をしてくれたので、俺も作業に入る。

 まずはシーサーペントを三枚におろし、骨やヒレを取り除く。そして食べやすい大きさに切り分け、串に刺したあと俺の手作りタレを塗る。


「じゃあ凛、これを焼いてくれるか?」

「はい、お任せ下さい」


 俺からそれを受け取った凛は、グリルでそれを炭火焼きしていく。

 確か昔は料理がそれほど得意ではなかったはずだけど、手際が良くなっている。家で星乃に料理を教わっていると聞いたことがあるからそのおかげだろう。

 星乃には感謝しないとな。


"おお……うまそうだな"

"腹減ってきたw"

"シーサーペントくんもまさか自分がタレを塗られて炭火焼きにされるとは思わなかったやろなあ"

"クラーケンはどう食べるんだろ。てかどんな味?"

"見た目的にタコみたいな味なんじゃない? 知らんけど"

"え、この人本当にモンスター食べる気なんですか? 信じられない……"

"初見くんも困惑しとる。まあこの配信終わる頃には慣れてるやろ"

"俺にもこんな時代があったなあ……懐かしい"

"古参ムーブしとるけど、シャチケンが配信初めてまだ半年も経ってないんだよなあ"

"出来事が多すぎてもう五年はファンやってる気分だw"

"中身が濃すぎるからしゃあない"


 シーサーペントを焼くのを凛に任せた俺は、次の料理の準備に入る。

 持ってきた粉を水で溶かし、コカトリスの卵を入れて更に混ぜ生地を作る。そしてそれを丸い型の鉄板に流し込む。


「堂島さん、小さめに切ったやつをもらえますか?」

「うむ。これくらいでよいか」

「ありがとうございます」


 俺はクラーケンの切り身を生地に入れ、更に焼く。

 そして焼けたところで生地をひっくり返し、また焼く。カリカリに焼けたそれを取り出し、ソースとマヨネーズをかければ完成だ。


 それを見た凛は、驚いたように聞いてくる。


「先生、これってまさか」

「ああ『クラーケンのたこ焼き』だ。美味いぞこれは」

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