第7話 田中、東京湾に行く

「海なんて来るの久しぶりだな」


 俺はほのかに香る潮の匂いを嗅ぎながら、一人呟く。


 海底ダンジョンの話を聞いた翌週。

 俺は東京湾のとある港にやって来ていた。


 今回のお目当てはもちろん東京湾の海底に出現したというダンジョンだ。

 今のところ海にモンスターが出たという報告は上がっていない。ダンジョンから放たれる魔素の数値を測ったみたいだが、その数値から見ても魔物災害が起こっている可能性はゼロに近いという。


 でも油断は禁物だ。ダンジョンはいつだって俺たちの想定を超えてくる。神経質になるくらいでちょうどいいだろう。

 俺はそう思っていたのだが……


「がはは! ダンジョンに潜るなどいつぶりじゃろうか! 腕がなるわい!」


 まるで子どものようにはしゃぎながら堂島さんが言う。

 本当にダンジョンに同行できるのか疑問だったけど、なんとか各方面に話を通して二日間だけ時間を作れたらしい。

 まあずっと休みなしで働いていたみたいだし、それくらいは許されるか。せっかくの休みなのにダンジョンに入りたいなんて俺からしたらありえない行動だけど。


「あんまり無茶しないでくださいよ。現場は久しぶりなんでしょう?」

「おう言うようになったのう田中。ワシは『生涯現役』。多少現場を離れたからといって若造に心配されるほど呆けておらんわ」


 にい、と堂島さんは笑う。まあこの人なら大丈夫か。


「田中くんの言う通り気をつけてくださいよ? 帰ってきたらすぐに仕事をしていただかなくてはならないのですから」


 眉を下げながらそう言うのは、堂島さんの秘書の伊澄さんだ。

 今回のダンジョン探索の見送りは彼女一人。今日ダンジョンに潜ることは告知しているけど、場所は公表していないので見物客もいない。

 まあいたところでダンジョンは深海にあるのでついてくる心配はないんだけど、ゆっくり準備できたのはありがたい。


「なあにダンジョンごときに遅れは取らん。留守は任せたぞ伊澄ちゃん」

「はいはい、分かってますよ。こちらは任せて思う存分楽しんで来てください」


 呆れたように言う伊澄さんだが、その表情はどこか嬉しそうだ。

 堂島さんが羽を伸ばすことができて彼女も嬉しいんだろう。堂島さんが今まで大変だったのを一番近くで見ているだろうからな。


「さて、そろそろ配信するとするかのう。絢川も準備はよいか?」

「はい。いつでもいけます」


 堂島さんの問いに、凛が真面目な表情で答える。

 どうやら凛は今回のダンジョン探索にかなり気合いを入れて臨んでいるらしい。


 なんでだろうと不思議に思っていたが、星乃いわく俺にいいところを見せようとしているらしい。俺は十分彼女の力量を認めているのだが……まあだからいいかと納得はしないだろう。こういうのは自分で納得しないといけない。

 俺も昔は師匠に認めてもらおうと色々無茶した経験がある。


「じゃあ田中頼む」

「はい、配信を始めます」


 俺は少しだけ手慣れた手つきで配信を始める準備をする。

 今回は堂島さんと凛がいるので、魔物対策省のアカウントで配信しても良かったのだが、堂島さんの計らいで俺のアカウントでやることになった。

 仕事分のお金は貰っているし、他にもギルドを作るにあたって色々便宜を図ってもらっている。

 ここまでしてくれるなんて、俺がブラックで働いていることに気がつかなかったことをまだ気にしているんだろうか? 別にそんなこと気にしなくていいんだけどな。


 俺はそんなことを考えながら配信を開始する。


「よし、スタートと」


 配信が始まると、一気に視聴者数が増える。

 百万、五百万、千万……日本だけでなく世界中から見てもらえているので、どんどん数字がインフレしていく。炎上しないように気をつけないとな。


"お、始まった"

"おはケン"

"待ってました!"

"今回はどこ潜るんやろなあ"

"どこここ? 海?"

"誰かと一緒に潜るって言ってたけど、誰なんだろ"

"手堅くいくならゆいちゃんかな"

"そろそろ凛ちゃん来ると信じ続けている"


 コメントが次々と流れてくる。

 今回はゲストありとあらかじめ告知していたから、みんなそれを気にしているな。さっそくみんなに伝えるとしよう。




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