第6話 田中、食卓を囲む
「いいなあ凛ちゃん。私も行きたかったなあ」
夜。
みんなで食卓を囲んでご飯を食べていると、星乃が羨ましそうにそう言ってくる。
「行きたかったなあって、遊びに行くんじゃないんだぞ?」
「それは分かってますけど……でもお留守番は寂しいです」
星乃は唇をつんと突き出しながら拗ねる。
今話題になっているのは、俺が海底ダンジョンに行くことについてだ。
行くメンバーは俺と凛と堂島さん。今回星乃はお留守番だ。
一緒に住み始めてから、俺は星乃に稽古をつけている。そのおかげもあってか、前より更に強さに磨きがかかっている。
なので連れて行ってもいいくらいの腕前にはなっている……が、残念ながら星乃は水中適正がそれほど高くない。訓練すれば深海まで行けるようになるかもしれないが、流石に一週間では無理だ。いくら拗ねても連れて行くわけにはいかない。
「安心してください唯。先生は私がしっかりとサポートしますので」
自らの胸に手を当て、ドヤ顔で凛が言う。
普段はポーカーフェイスな彼女だが、一緒にダンジョンに行けると知ってからいつもよりテンションが高いように見える。可愛い奴だ。
「うう、羨ましい……」
「今回は私に任せてください。帰ったら泳ぎを教えますから」
「本当ですか? ありがとうございます凛ちゃん!」
仲良さそうに話す二人。
同じ家に住むことになって更に二人の仲は深まったように見える。その仲の良さはとても最近知り合ったようには思えないほどだ。
「海の中のダンジョンなんておっかねえですね。兄貴や凛の姉御はともかく、もう一人行く人は大丈夫なんですか?」
もぐもぐとご飯を食べながらダゴ助が尋ねてくる。
ちなみにリリシアは星乃が作った肉じゃがに夢中で話を聞いていない。食いしん坊なお姫さまだ。
「堂島さんなら心配いらないだろう。水の中は俺より得意なはずだ。デスクワークで腕がなまってなければだけどな」
「はあ……あのオッチャンそんなやべえ人なんですね。こっちの世界、俺のいた世界よりやばい人多そうだな……」
ダゴ助はおっかなそうに呟く。
あっちの世界には深海に素潜りできる人は少ないようだ。
「そういえば凛ちゃん、天月さんはまだ帰ってこれないんですか?」
「……そうみたいですね。もしかしたら今日は帰ってこれないかもしれません」
「そうですか……」
凛の言葉を聞き、星乃はしゅんと眉を下げる。
どうやら天月は普段の業務の他に、須田の捜索にも参加しているらしい。責任感の強いあいつのことだ、責任を感じているんだろう。
須田を捕まえたのは自分だから……と。
気にしないようにとメッセージは送ったけど、まあそれで止まるような奴じゃない。次にあったらちゃんとそう伝えようと思っていたんだけど、どうやら今日は叶いそうにないな。
「あのバカ、とっとと捕まってくれないかな」
俺はそう言ってため息をつく。
まあでもあの目立ちたがり屋のことだ、数日で手がかりは見つかるだろう。
そう思う俺だったが、海底ダンジョンに潜るまでの一週間の間に、ついにあいつの手がかりが見つかることはなかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます