第5話 田中、同行者を決める
水の中にダンジョンができることは
俺も水の中のダンジョンは片手で数えるほどしか入ったことはない。だけどそれも浅瀬や湖にできたものだけ。海底に生まれたダンジョンには入ったことがない。
おそらくダンジョンの中も水が多いだろう。泳ぎながら進む場面も多いはず。間違いなくこれまで入ったダンジョンの中でも、難度の高いものだろう。
「そのダンジョンはどれくらいの深さにあるんですか?」
「『東京湾海底ダンジョン』の入口は水深約200mの位置にある。まだ調査は十分でないが、それほど大きなズレはないじゃろう」
「ずいぶん深いですね……」
確かにそれじゃあ行くだけでも大変だ。
ベテランの探索者でも、水の中だと全然上手く動けない人も多いからな。
「どうやらダンジョンの出現と同時に海底に大きな
「だからそんなに深いんですね」
「うむ。亀裂の中に行かなければ狭いので当然潜水艦は使えない。お主には素潜りで行ってもらうことになる」
「ええ、やだなあ……」
てっきり入口までは連れて行ってもらえるものだと思っていた。
まあ水深200mくらいなら大丈夫だろうけど。
「なあに安心せい。田中一人に任せるつもりはない。水中のダンジョンは一人では危険過ぎるからのう、
堂島さんはそう言うと、後ろに控えていた秘書の
「伊澄ちゃん、来週辺りで出せる職員はおるか?」
「水中適性のある職員ですと、そうですね……」
伊澄さんはタブレット端末を操作して探してくれる。
手を貸してくれるというのはありがたいけど、知らない人と潜るのは少し抵抗がある。俺は人見知りなんだ。
「あ、いい人がいました。水曜日からでしたら絢川凛が空いております」
「おお! 良いではないか! 確かに絢川は水中適性が高かったのう。お主との相性もいいしうってつけじゃ」
確かに凛なら俺も安心して背中を任せることができる。
それにこの前また俺とダンジョンに潜りたいと言っていたのでそれを叶えることもできる。
「それじゃあ俺と凛の二人で行くということでいいですか?」
「それでもいいが……保険としてもう一人くらい連れていきたいのう。伊澄ちゃん、誰かおらんか?」
堂島さんがそう尋ねるが、伊澄さんは首を横に振る。
「水中適性がある者となりますと、もうおりませんね。天月奏も絢川凛ほどではありませんが水中適性は高いですが、二人とも出てしまうとリリシアさんの護衛がいなくなってしまいます」
「むう……そうか」
堂島さんは腕を組みながらどうしたものかと考え込む。
俺は凛がいれば大丈夫だと思ってるけど、堂島さんとしては不安らしい。
堂島さんは魔物対策省ができる前、海上自衛隊の海将だった。海の恐ろしさはよく知っているんだろう。
だからこそ万全の準備をして俺を送り出そうとしているんだ。
でも人がいないんじゃどうしようもない。水生生物っぽいダゴ助とかも役には立ちそうだが、保護している手前ダンジョンには連れていけない。
他に深海に素潜りできる知り合いは思いつかないし……どうしたものか。
「むう、なにかいい案は……お、そうじゃ」
堂島さんはなにか妙案を思いついたようにそう言うと、胸ポケットから手帳を取り出しペラペラとめくり始める。
そうして「うむ、うむ、これなら」と呟くと、手帳をポケットにしまい口を開く。
「田中! 一人いい人物がおった! こやつならお主も納得するじゃろう!」
「え、そんな人いました? いったい誰ですか?」
俺がそう尋ねると、堂島さんはにやりと笑みを浮かべ、想像もしていなかった人物を挙げる。
「ワシじゃ! そのダンジョンにはワシも行く!」
「なるほど堂島さんが……って、ええっ!?」
まさかの提案に俺と伊澄さんが驚く。
堂島さんが同行するなんて発想、頭から完全に抜けていた。
「ワシは泳ぎが上手いし腕も立つ、問題あるまい」
「いや確かに戦力としては十分過ぎますが、大丈夫なんですか? 忙しくてダンジョンに潜る暇なんてないんじゃ」
伊澄さんに視線を移すと、彼女は首を縦にこくこくと振りまくる。
しかし当の本人はすっかり行く気まんまんで、
「そろそろ体を動かさんといけないと思っておったところじゃ。確かに仕事は山積みじゃが……まあ一日二日くらいなら大丈夫じゃろう。須田の件も警視庁が主導しておるからワシができることはないしのう」
「で、ですが来週はまだ仕事が……」
伊澄さんが困った様子で堂島さんを引き留めようとする。
しかし堂島さんはもうすっかり行く気だ。ああなったあの人を止めるのはもう不可能だろう。
しかしそれにしてもまた堂島さんとダンジョンに潜ることになるなんて。
少し楽しみになってきたな。
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