第4話 田中、謝罪される

「今回の件、本当にすまんかった!!」


 堂島さんは大きな声でそう言うと、俺に深々と頭を下げる。


 ここは魔物対策省の大臣室。

 つまるところ堂島さんの仕事部屋だ。

 そこで俺と堂島さんは小さめのテーブルを挟んで向かい合うように座っている。


 須田が逃亡したというニュースが流れた翌日、俺はこの場所に呼び出された。もちろん呼び出されたのは須田が逃げた件に関してだ。

 堂島さんはその件に責任を感じているようで、席について早々謝罪してきた。


「やめてくださいよ堂島さん。今回の件、魔対省に落ち度はないんでしょう?」

「確かに護送は警視庁主導で行われておった。あの現場に魔対省うちの者はおらんかった。しかし……だからといってワシに責任がないわけではない。あやつは魔対省うちが一度身柄を預かった。責任はワシらにもある」


 真面目な顔で堂島さんは言う。

 相変わらず義理堅い人だ。


 だが確かにニュースでも魔対省を責める声は大きい。堂島さんは支持する人も多いが、敵も多い。ここぞとばかりに揚げ足を取って非難する声も多い。

 あわよくば失脚させてやろうと思っている人も多いんだろう。堂島さんがいなくなればこの国の力はガクッと落ちるからな。外国からしたら都合がいいんだろう。苦労が偲ばれる。


「現在警視庁と魔対省が共同で須田を捜索している。悪いがもう少し待っていてもらいたい。必ず奴を見つけ出し、豚箱にぶち込み臭い飯を食わせてやる」

「はい、よろしくお願いします」


 須田の逃亡は警視庁と魔対省、二つの組織の顔に泥を塗る行為だ。

 両組織共に己の面子を守るためにも本気で捜索するだろう。あいつが逃げ切れるとは思えない。


「まあでも逃げたのが須田なら捕まるのも時間の問題じゃないですか? 確かにあいつは覚醒者ですが、しばらくダンジョンに潜ってませんしそれほどの脅威になるとは思えません」

「ワシも須田自身はそれほど脅威に思っておらん。問題は協力者じゃ」


 ニュースでは護送車が何者かの襲撃を受け、その時に須田は逃げ出したと言っていた。

 その襲撃者とやらが協力者なんだろう。


「護送車には警察庁が寄越した人間が乗っておった。全員腕利きの覚醒者じゃ。しかしそやつらは一瞬で無力化されたと聞いておる。どちらかというワシらが危険視しているのはそっちじゃ。須田を捕らえるのはもちろん、その謎の人物の行方と正体も追っておる」

「謎の人物……ですか」


 確かにそいつの正体の方が俺も気になるな。


「なんでそんな実力者が須田の逃走を手伝ったんですかね? 黒犬ブラックドッグギルドもなくなったし、あいつに利用価値はないと思うんですが」

「ああ、それなんじゃが……黒犬ブラックドッグギルドの資金の流れを調べる中で、あることが分かったんじゃ。奴はお主を筆頭に、社員が稼いだ金をいわゆる『裏組織』に献上しておった」

「裏組織って……漫画じゃあるまいし……」


 突然出てきた言葉に、俺は困惑する。

 それが事実なら本当に骨の髄までブラックな会社だったんだな。


「あやつが資金を流したいくつかの組織は判明しておる。だが分かったところは全て小者。一番資金を流している先の組織は、とうとう尻尾をつかめんかった」

「その組織が須田の逃走を手助けした……ってことですか」

「おそらく、じゃがな」


 なるほど、そうなると合点がいく。

 須田はあらかじめ保険をかけていたというわけだ。あいつ、人の稼いだ金でなにしてるんだ。


「まあとにかく、そいつの正体含め今警視庁と魔対省の者が全力で捜査しておる。お主はもうしばらく待っとってくれ」

「分かりました。よろしくお願いします」


 モンスターの討伐なら力になれるけど、逃走犯の捜査は力になれない。

 須田のことは気がかりではあるけど、プロに任せておくのがいいだろう。


「と、そっちは任せてもらっていいのじゃが、他に頼みたい仕事があってな」

「仕事というとダンジョン関連ですか?」

「うむ。これを見てくれ」


 堂島さんはテーブルの上に地図を広げる。

 東京都とその周辺が描かれた地図だ。そしてその地図の東京湾の中心近くが赤く丸されている。


「東京湾の海底でダンジョンが発見された。お主も知っておるだろうが、海底のダンジョンは管理ができず、非常に『危険』じゃ」

「そうですね。魔物災害が起きたらそのモンスターが世界中に散ってしまいますからね」

「うむ。ゆえにお主にこのダンジョンの『破壊』をお願いしたい。お願いできるか?」


 危険なダンジョンは見過ごせないし、それに魔対省は今須田の捜索で忙しい。断る理由はない。


 俺は堂島さんに「任せてください」と答え、その仕事を受けるのだった。

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