第31話 タナカ、求婚される

「け、結婚!? リリシアちゃん、いったいどういうことですか!?」

「驚いた……まさかそう出るとはね……」

「なるほど、配信しながら言うことで退路を断つ。いい方法です」


 突然のリリシアの求婚を聞き、星乃と天月と凛は三者三様のリアクションを取る。

 今この状況で落ち着いているのはテーブルの上でぐてっと寝ているリリだけだ。


「ん? ん? わらわはなにか変なことを言ったか?」

「当たり前じゃないですか! 結婚というのはもっとこう、過程を経てですね……」


 星乃が説明するが、リリシアはきょとんとしていてあまり納得した感じではない。

 考えてみればリリシアはエルフ、異世界人だ。こっちの人間と価値観が違って当たり前だ。男女が結婚するという文化が共通しているだけでも奇跡に近い。


 ダンジョンが生まれてから結婚という文化は昔よりカジュアルになったけど、向こうの世界ではもっとカジュアルなのかもしれない。

 エルフ独自の価値観もあるだろうしな。


"修羅場キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!"

"盛 り 上 が っ て き ま し た"

"いきなり求婚とはたまげた"

"これなんてエ◯ゲ?"

"姫様ご乱心で草"

"とんだハーレムハウスだぜ"

"男一人のテ◯スハウスだろこれ"

"大胆な告白は女の子の特権"

"姫ー! まだ結婚しないでー!(泣)"

"シャチケンとエルフの子どもとかめっちゃ強そう。やっぱ魔法も使えるのかな"

"魔法使えるシャチケンとか考えたくねえな"


 スマホをチラと見ると案の定コメントが爆荒れしている。


「ふむう、いきなりの求婚はよくないのか?」

「いけないというわけじゃありませんが、その、なんというか……」


 星乃はしどろもどろになっている。

 うーん、確かにどう説明していいか難しいだろうな。


「わらわの世界では王族が政治的婚姻をするのは普通だ。友好を結ぶためや戦争を終える為に嫁ぐことこそ姫の仕事、そう考えられている」


 ふむ、なるほど。

 そういう価値観の世界から来たのなら、気軽に求婚するのも頷ける。リリシアはこっちの世界と友好関係を結ぶため、数少ない男の知り合いである俺に求婚してきたというわけだ。


「あ、じゃあ田中さんが好きだからというわけじゃないんですね。ふう……よかった」

「いや、私はタナカに好意を抱いているぞ? そうでなければわらわとて政略婚をこんなに早く申し出たりはしない」

「えっ」


 リリシアの返事に星乃が固まる。

 俺の頭も固まりっぱなしだ、誰か助けてくれ。


「我らエルフにとって重要なのは美醜よりも魔力の強さ。タナカの魔力それはあの魔王ルシフをも超えている。我が国に来たら国中の女エルフが放っておかないだろう」


 魔力というのはこっちの世界で言う魔素のことだろう。迷宮情報端末アーカイブでも魔素のことは魔力と説明されていたらしいからな。それが見つかるよりも先に魔素と名付けれられていたから、そう今でもそう呼ばれているけど。


 ……それにしても魔素の大きさが魅力になるとは、さすが異世界といった価値観だな。


「それだけではない。魔王から助け出された時、わらわは強い胸の高鳴りを感じた。あのような気持ちになったのは初めてだ。つまりこれは運命! さあわらわと結婚しようタナカ!」


 胸を張り力強く言い放つリリシア。

 ここまで堂々と婚姻を申し込んでくるなんて色々と凄すぎる。これが姫様の力か……。


 俺も星乃や天月たちも口を開くことができず、場を沈黙が支配してしまう。


"クッソ気まずくて草"

"地獄みたいな空気だな"

"そらそうもなるわ"

"よりによってゆいちゃんたちが全員揃っている時に言うんだもんな"

"まあ姫はシャチケンがゆいちゃんとかから好かれてるの知らないから……"

"なにも知らないリリシアちゃんかわいい"

"こんな奇跡の場面が配信されていることに感動している"

"俺は見てるだけで心臓が痛む。見るけど"

"どうなるんやこれ"

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