第27話 田中、助けられる
「……驚きました。これでも迅速に動いたつもりなんですけどね」
五十住は天月を見ながらそう呟く。
平静を装ってはいるが、その声にはほんの僅かに苛立ちが混じっているように見える。天月の魔法のせいで足はカチコチに凍っているし、いい気味だ。
しかし五十住の言っていることにも一理あるな。
天月は今日仕事があって来れなかったはずだ。助けに来るとしても早すぎる。
天月は俺たちの側に来ると、五十住たちに向き直る。
「堂島大臣は誠が魚人と接触した時点でこの展開を予期していました。別世界から来た知的生命体、その価値は計り知れない……必ずや横槍が入ると」
なんと。リリシアに会うより早く堂島さんは動いてくれてたのか。それなら天月が間に合ったことにも説明がつく。ダゴ助に会った時点でここまで予期して動いてくれていたなんて、やっぱりあの人は頼りになる。
「横槍を入れてくる者に誠が負けるとは考えられませんが、
確かに人質とか使われたらマズかったな。
一人だけなら相手が動く前に攻撃すればなんとかなるけど、二人とか取られるとさすがに困る。特訓して三人までなら救えるくらいに速くなった方がいいかもしれない。
「私は堂島大臣よりこの場の全権を預かっています。忠言を無視し、田中誠、並びに二人の異世界人への敵対行為を続けるようであれば、魔対省を敵に回すと考えてください。それでもまだやろうと言うのであれば……」
天月は刀の刀身を抜き放ち、その先端を地面に突き刺す。するとパキン! という音と共に地面が凍りつく。
「魔物対策省討伐一課課長、天月奏がお相手します。いかがいたしますか?」
相手を強く睨みつけながら天月は言い放つ。
い、イケメン過ぎる。俺が女だったら間違いなく惚れていただろう。
「……我々が何者かは理解してますよね? 魔対省にとってあの異世界人たちの利用価値はそれほど高くないはず。つまらない任侠で敵対するのは賢い選択とは思いませんが」
「『おととい来やがれ』と堂島大臣から言伝をもらっています。二人の身柄は魔物対策省が責任を持って預かります。得た情報も隠す事なく政府に共有します。分かったなのなら帰りなさい」
天月がそう言うと、彼らの足を覆っていた氷が一瞬にして溶ける。
しかしまだ警戒は解いておらず、体からは強い魔素が放たれている。すぐにでも先ほどの魔法が放てそうだ。
解放された男たちは再び武器を構えなおし、天月を睨みつける。
あんな風にされたんだそりゃ怒ってるよな。しかし彼らのリーダーである五十住は、
「分かりました、今日は引きましょう」
あっさりと天月の要求を受け入れた。
怪しい、なにか裏があるんじゃないか? そう
「我々が争っていては国の戦力をいたずらに消費してしまいます。それらは我らの望むところではありません」
ふむ、確かにその通りだ。
魔物対策省がダメージを受ければ、海外から攻め入られる隙もできてしまう。それは彼らにとっても痛手だろう。敵対して得はない。
「ですのでひとまずそのお二人はあなた方に
「そのようなことは起こりませんから安心してお帰りください」
「……そう祈ってますよ」
五十住はそう言うと最後に俺の方を向き一礼すると、部下を連れて去っていく。
ダンジョンに再び訪れる静寂。俺はほっと一息つく。
「ありがとう天月、助かったよ」
「当然のことをしたまでよ。むしろあなたには政府のいざこざのせいで迷惑をかけてしまったわね。ごめんなさい」
天月は申し訳なさそうに眉を下げる。
別に天月が悪い訳じゃないというのに。律儀な奴だ。気にしなくていいのに。
おっとそうだ。ダゴ助とリリシアは無事か? 目を離した隙に攫われたりしてないだろうか。
振り返って確認してみると、ちょうど二人が俺に飛びかかって来るところだった。
「あ゛り゛がどう兄貴~!! このご恩は一生忘れません~!!」
「おい! 邪魔だぞダゴ助! ここはわらわが抱きつくところだろうが!」
心配せずとも二人は元気いっぱいだった。
ふう、一安心だ。
「外に車を用意してあるわ。二人を保護するから一度魔対省まで来て頂戴」
「ああ、分かった」
俺は天月にそう返事をする。
気が付けば後ろからゴゴゴ、と振動する音が聞こえる。どうやらダンジョンがなくなるまで時間はないみたいだ。
俺は抱きついてくる二人を連れて、このダンジョンから脱出するのであった。
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