第24話 田中、脱出する
行きこそ時間のかかるダンジョン探索だが、帰りは意外と大変じゃない。
道は分かっているし、モンスターもそれほど襲ってこない。姫様を抱っこしている状態ではあるけど、俺たちはサクサクと帰還していた。
"なんでこんなサクサク帰れんねん"
"速すぎて草"
"もう壁を走るの見ても驚かんわ……"
"あっ、モンスター出てきた"
"危ないぞ! シャチケンにやられるぞ!"
"心配されるのモンスターの方なんだ"
"あっ、蹴ったら上半身消し飛んだ"
"腕ふさがってるのに強すぎる"
"ダゴ助くんはようついていってる"
"この調子なら脱出できそうだな"
「ひい、ひい、疲れた……」
「もう少しだぞダゴ助。頑張れ」
「は、はいぃ……」
俺の言葉にダゴ助はへろへろになりながらも返事をする。
既にダゴ助と会った地底湖は超え、上層までたどり着いている。ここからはモンスターも弱いし、障害になるものはない。
俺もそこそこ疲れてはいるけど、地上まで走るくらいなら問題ない。リリシアさんも大人しく抱かれてくれているので元気だ。
「……感謝するわタナカ。必ずこのお礼はする、楽しみにしてなさい」
「だからいいですって。仕事で助けただけですから」
移動している間、リリシアさんはお礼をすると言ってきた。
今回の件の仕事の報酬は堂島さんから貰うので、それ以上のものはいらない。俺は固辞しているんだけどリリシアさんはお礼をすると言ってきかないのだ。
うーむ、どうしたものか。
「わらわがなんでもすると言っているのよ! なんで嫌がるのよ!」
「あの、あんまり言うとまた炎上するので静かにしていただけると……」
「炎上? 火の魔法なんて使ってないじゃない!」
「いやそういうわけじゃなく……」
"シャチケンたじたじで草"
"いちゃいちゃしやがって"
"リリシアたんにお礼されたい人生だった"
"早く薄い本作ってくれ"
"厚い本でも構わんッ"
"コミケが盛り上がるわね"
"わらわ可愛すぎる"
"わらわー"
"ヒロインレースにダークホースが現れたわね"
"ぎぎ……わいの田中に色目使いやがって……"
"シャチケンそろそろ刺されそうw"
"まあ刺した包丁のほうが折れるから大丈夫でしょ"
"草"
「それとタナカ。いい加減敬語はやめなさい。貴方は魔王を倒した勇者、わらわにかしこまる必要はないわ」
「いやでも……」
「なに、文句あるの」
ぎろ、とリリシアさんは睨んでくる。
あまり仲良くしすぎるのはよくないんじゃないかと思ったけど、関係が悪化するのも困る。
彼女は超重要参考人だ。
こっちの世界の人間に非協力的になってしまったら俺は責任が取れない。しょうがないので俺は折れる。
「分かったよ……
そう言うと彼女は嬉しそうに笑みを浮かべ「ええ、それでいいわ」と言う。
改めて見るととんでもない美人だな……コメントで人気が出るのも当然だ。
"落ちたな(確信)"
"あかん可愛すぎる"
"攻略速すぎて草"
"攻略組やししゃーない"
"わいのリリシアだんが……"
"頼む、ダゴ助だけは落とさないでくれ……"
"マニアがいるわね"
"ダゴ助も落ちてはいるだろ"
"異世界は物騒そうだし、強い田中はモテるだろうなw"
"あっちの世界の方が向いてそうw"
"頼む、行かないでくれ……"
"行っちゃったら損失がデカすぎる"
コメントで色々言われているけど、異世界に行くつもりなんてない。
まあ確かに楽しそうではあるけど、こっちの世界で生活するので俺は精一杯だ。お世話になった人たちに恩も返さないといけないし、ギルドの運営もある。
ま、全てが終わったら考えてもいいけどな。
「……お、そろそろ出口だ」
「本当ですか!? やったぜ!」
俺の言葉にダゴ助は歓喜する。
ここまで来ればなにも起きないだろう。ふう、今回もなんとかなったな。
"やったぜ"
"おかえりシャチケン!"
"おつ"
"お疲れ!"
"今回も最高だったぞ!"
"[\10000]シャチケン最強!"
"[\1000]少ないですがお祝いです!"
"おかえり!"
"[\2000]リリシアたんの配信も待ってます"
"とま"
"[\3200]今回もよかった"
"あれ"
"ん……?"
"ぐるぐる"
"配信止まった?"
"ちょ"
"なに!?"
"[\200]"
"てす"
"お"
""
「……ん?」
突然配信のコメントが止まってしまう。
おかしいな、今までこんなことなかったのに。
ダンジョン内に漂っている魔素は、電波を中継して地上まで送ってくれる効果も持っている。そもそもこの場所はダンジョンの最上部だから電波が届かないなんてことはないはずなんだが。
「機械の故障か?」
俺は首を傾げる。
うーん……ゴールの様子を配信できないのは悲しいけど、今はそんなことを悩んでいる暇はないか。俺はひとまず脱出を優先する。だが、
「止まれ」
突然
すると俺たちの行く手を遮るように五人の男たちが姿を表す。そいつらは全員高そうなスーツに身を包んでいる。ちなみに全員顔に覚えはない。
「……どなたでしょうか? 急いでいるんですが」
「引き止めるつもりはありません。私たちの目的は田中誠、貴方ではありませんので」
そう言って男たちのリーダーらしき人物は腕を上げ、俺が抱きかかえている人物を指差す。
「我々の目的は『彼女』です。彼女は我々が保護、管理をします。これは政府の『決定』です」
突然現れた男は、冷たくそう言い放つのだった。
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