第22話 田中、魔王に勝つ

 無事勝負を終えた俺は「ふう」と一息つく。

 斬業モードを使ったのは久々なので、少し疲れた。やっぱり持久力をもっと鍛えた方が良さそうだ。堂島さんが「スタミナを鍛えるには潜るのが一番だ。今度深海まで一緒に潜らんか」と飲みながら言っていたので、やってみてもいいかもな。


"うおおおおっ! シャチケンが勝った!"

"強すぎる!"

"誰がお前に勝てんだよ!"

"魔王くん正面から叩き潰されて草"

"シャチケン最強! シャチケン最強!"

"マジで今回はやばいと思ったわ"

"シャチケンいなかったらあれが地上に来たと思うとぞっとするわ"

"田中ァ! ありがとなァ!"


「おわっ」


 コメントを表示をONにすると、立体映像ホログラムに大量のコメントが流れる。

 追いきれないけど、どうやら満足してくれた人が多いみたいだ。良かった良かった。


「ええと確かここら辺に……お、あった」


 俺はめちゃくちゃになった地面の中からネクタイと上着を見つけて、身につける。

 ネクタイをつけたことで『斬業モード』は解除され、いつも通り力が制限される。もうこの状態が普通になってしまっているので、私生活でもネクタイを外すことができない。寝る時も風呂に入る時もネクタイを付けているので変態にしか見えないのが悩みだ。


 でも外すと上手く力を制御できずにドアノブとかをぶっ壊してしまう。難儀だ。


「兄貴ィ! 大丈夫ですかっ!?」


 上着を着終わると、ダゴ助が走って近づいて来る。

 その後ろにはエルフのお姫様、リリシアもいる。結構派手に戦ったけど二人とも無事だったみたいだ。


「ま、魔王の奴は倒したんですか!? 姿が見えやせんが」

「ああ。死んでるかは分からないけど、もう戦うことはできないだろう」

「さっすが兄貴! 兄貴ならやってくれると信じてましたぜ!」


 まったく、調子のいいやつだ。

 だけどこいつは俺がいない間、逃げずにリリシアさんを守ってくれていた。軽い性格をしているけど、意外と頼りになる。少し足立と似ているかもな。


「信じられない……あのルシフを一人で倒してしまうなんて」


 エルフのお姫様、リリシアさんはルシフが落ちた方向を見ながらぽつりと呟く。

 服がところどころ破けてはいるけど、怪我はなさそうだ。


"よかった。リリシアたん無事だった"

"ほっ"

"貴重なエルフを失うわけにはいかんからな"

"もうファンクラブできてるしなw"

"服破けてるのエッッすぎる"

"やっぱエロフだろ"

"この体で姫は無理がありますよ"


 相変わらず彼女が出るとセクハラコメントが多く流れる。

 本人はこういったコメントは苦手そうだから見せないようにしないとな。


「しかも人間一人の力で成してしまうなんて……信じ難いけど、この目で見てしまった以上目を逸らすわけにはいかないわね」


 リリシアさんは俺の近くに来て、真剣な表情で俺のことをじっと見る。

 わめき散らしていた時は子どもに見えたけど、そうしている彼女は確かにお姫様のように気品を感じられた。


「感謝しますタナカ。あなたのおかげで我が同胞の無念は果たされました。この恩は忘れません、必ずや返させていただきます」

「構いませんよ。仕事でやっただけですので」


 別に使命があって戦ったわけじゃない。結果的にはエルフの悲願を果たしてしまったのかもしれないけど、俺は仕事をしてただけ。お礼は堂島さんから貰えれば十分だ。


「そんなわけにはいかないわ! わらわがお礼すると言ってるんだから受け取りなさい!」

「ええ……だからいらないですって」


 エルフのお礼ってなんか怖いし。

 森とかプレゼントされても困る。


"めっちゃ断ってて草"

"無欲やなあ"

"まあ確かにちょっと躊躇するのは分かるw"

"ワンチャンリリシアたんお嫁にもらえるかもよ?w"

"実際英雄級の活躍はしてるからな"

"勇者シャチケン"

"社畜で剣聖で社長で勇者か……属性が渋滞してきたな"


 俺たちはしばらくお礼をするいらない論争を繰り広げた。

 俺はしつこく断ったけど、リリシアさんもなかなか頑固で話は平行線になってしまった。


「はあ、はあ……なかなか頑固ですね」

「あなたには負けるわタナカ……。ひとまずこの話は落ち着いてからまたするとしましょうか」

「ええ、そうですね。魔王の様子も確認しなきゃいけませんし……」


 話は一旦保留にして俺たちはルシフが落ちた場所に向かう。

 大きな瓦礫をよいしょとどかしながら進む。まだ僅かに感じ取れる魔素を探知しながら探すと、程なくして魔王ルシフが見つかる。


「ふふ……見つかってしまったか」


 不敵に笑うルシフ。

 余裕を感じられる表情を浮かべているが、その体は胴体から半分に両断されていた。

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