第11話 田中、新たな視聴層を知る

「おらおらおら! どきやがれ!」


 大きな声を上げながら猛スピードで先行する、新たな仲間ダゴ助。

ダゴ助は襲いかかってくるモンスターたちを次々と殴り倒していく。

 かませ感が強いダゴ助だけど、こいつはEXランクだ。つまりSランクのモンスターや探索者より戦闘能力は高い。この先の戦いでも頼りになるだろう。


「ぎゃー! 罠にかかっちまった! 助けてくれ兄貴ぃ!」


 ……訂正しよう。やっぱり役に立たないかもしれない。

 俺はダゴ助のもとに駆け寄り、体をぐるぐるに巻いている鎖を斬る。こんな古典的な罠に引っかかるなんて先が思いやられる。


"ダゴ助くん愉快だなあ"

"クラスに一人はこんなお調子者いたなw"

"強いはずなのに全然頼もしくなくて草"

"こんな調子で大丈夫か?"

"ま、シャチケンいるし大丈夫でしょ"


「いやあ面目ない。ダンジョンは不慣れなもんで」

「まあ別にいいけど……そっちの世界にはダンジョンは少ないのか?」

「人間たちの住む場所には結構あるみたいですぜ。でも俺たちの住む場所にはほとんどねえです」


 ふむ、やっぱりダンジョンはあるにはあるのか。

 ということは十中八九ダンジョンは異世界からやってきたということになる。


 しかし一体なんのためなんだろうか? まったく目的が分からない。

 やっぱりこれは人為的じゃなくて、自然に起きた事故なんだろうか。


「りり?」


 頭を働かせていると、胸ポケットからリリが顔を出す。

 そういえばしばらく姿を見せていなかったな。どうやら今まで寝ていたみたいだ。


「あ、そういえば『ショゴス』ってダゴ助の仲間なのか?」

「ええそうですよ。同じく邪神に仕える種族なかまでさあ……って、ええっ!?」


 リリを見たダゴ助は目ん玉を飛び出し驚く。

 やはりいいリアクションをする。ひな壇芸人になったら引っ張りだこだろう。


「どうしたんだ?」

「あ、兄貴ぃ! な、ななななななんで『リリ』様がここにいるんですかぁ!?」

「……ちょっと待て。なんでお前がリリの名前を知っているんだ」


 こっちの世界にいる者なら、ショゴスのリリの名前を知っているのも分かる。

 ネットで爆発的な人気を持っているリリは、新しい写真をSNSに投稿しただけで一瞬で何万いいねがつく。この前投稿したお昼寝している写真なんか1億いいねがついていた。いくら海外勢のファンが多いからっていきすぎだ。


 だけどダゴ助こいつは違う。

 ここで俺と出会うまで、こいつは異世界にいたんだ。リリのことを知っているはずがない。いったいどういうことなんだ?


「リリ様は俺たちの上司、邪神の方々のアイドルになっていやす。なもんでその手下の俺たちはリリ様のグッズを作らされています」

「……いやだからなんで邪神がリリのことを知っているんだよ」

「んー、詳しくは俺も知りやせんが、邪神の方々は色んな力が使えます。その力で兄貴の活動を見ているんじゃないですか?」


"マジかよ邪神くんも配信見てるの?"

"草。仲間じゃん"

"いえーい! 邪神くん見てる?"

"リリたんの可愛さは全世界……いや全次元共通だったか"

"クトゥルフがモニターの前でリリたんに声援送ってるとこ想像したら駄目だった。おもろすぎる"

"リリたんグッズこっちも早く作って"

"さすが俺たちのリリたんだ"

"ふんぐるいふんぐるい(名状し難き文字列)"

"この意味分からない文字もしかして……いや、まさかな"

"りりたそ、いあいあ"


 ……まさか視聴者の中に邪神がいるとは思わなかった。

 しかもリリがそんな奴らにまで人気なんて。


「良かったな、人気らしいぞ」

「り?」


 リリはよく分からないようで首を傾げる。

 邪神に観察されているのは少し嫌な感じがするけど、まあ向こうもこっちに手出しはできないだろう。気にせずやるとしよう。


「……っと、兄貴。次の奴が来ましたよ」

「ああ、分かっている。


 カタカタと音を鳴らしながら、剣を手にした黒い骸骨がこちらにやってくる。

 スケルトンの最上位種、『精鋭黒骨兵士ブラック・スケルトン』だ。


"まじかよ、あれ精鋭黒骨兵士ブラック・スケルトンじゃん"

"ただの黒いスケルトンじゃん、強いの?"

"確かに弱そうw"

"アホ多すぎて草。あれランクSのモンスターだぞ"

"深層にいるモンスターが余裕で出てくるようになったな"

"ただの黒い骸骨にしか見えないけど、そんな強いんだ"

"スケルトンは多少バラバラにしても復活するからな"

"聖属性の魔法や武器なら楽に倒せるんだっけ? シャチケンも持ってるのかな?"

"聖属性の武器は貴重だけど、シャチケンなら持ってるかもな"

"ていうか持ってないと精鋭黒骨兵士ブラック・スケルトンを倒すのは相当厳しいぞ"


『ギャギャ!』


 精鋭黒骨兵士ブラック・スケルトンはけたたましい声を上げながら襲いかかってくる。

 聖属性の武器を持っていたら一発で浄化できるんだけど、生憎そんな物は持っていない。なので少々手荒だけど、強引な手・・・・を使わせてもらう。


「よっ、と」


 精鋭黒骨兵士ブラック・スケルトンの剣の一撃を躱し、腹にパンチを打ち込む。するとその衝撃で精鋭黒骨兵士ブラック・スケルトンの体はバラバラになる。

 スケルトンは斬撃に耐性がある。殴打が弱点なので拳で殴るに限る。


"一発でバラバラになって草"

"シャチケンの拳は鋼でできているのか?"

"精鋭黒骨兵士ブラック・スケルトンってかなり硬いんだけどな……"

"シャチケンの拳はダイヤモンド製なんでしょ"

"田中の拳は砕けない"


 バラバラになった精鋭黒骨兵士ブラック・スケルトン

 しかしその体が再び一箇所に集まり始める。スケルトンはこれが厄介なんだ。バラバラになってもすぐくっついて再生してしまう。

 だから念入りに砕かなくちゃいけない。


「えいえい」


 身近にある骨を踏みまくって粉々になるまで砕く。

 それが済んだら別の骨。それも終わったら次の骨。再生できなくなるまで骨を砕きまくる。


"ひえっ"

"怖すぎて草"

"スケルトンくんの顔がどんどん絶望に染まっていってる……"

"そりゃ再生しようとしても片っ端から砕かれてるんだ。ビビる"

"なんで鋼より硬い骨をあんな簡単に砕けるんだよ"

"シャチケンなので……"

"スケルトンより怖い"


 何個か骨を粉々にすると、精鋭黒骨兵士ブラック・スケルトンは再生を諦めたのか塵となって消える。ふう、面倒くさい相手だった。

 さて先に進むかと思うと、ダゴ助がなにやら俺のことを見つめていることに気がつく。


「ん? どうしたんだ?」

「……いや、絶対兄貴を怒らせちゃいけないなと思いやして」


"同意"

"分かりみしかない"

"それはそう"

"シャチケンと戦わなきゃいけないモンスターが可哀想"

"田中が敵に回った時が地球の終わりだな"


 なぜかダゴ助の意見に同意するコメントが流れ始める。

 俺は一生懸命モンスターを倒しているだけだというのに、酷い話だ。


「ほら、さっさと進むぞ。もうすぐ定時を過ぎる」

「あ、待ってくださいよ兄貴っ!」


 俺たちは更にダンジョンを奥に進む。

 魔素の濃度はどんどん上がっている。おそらく底にたどり着くのは近いだろう。

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