第9話 田中、励ます
「えぇーーーーーー!? ここは俺がいた世界とは、別の世界なんですかっ!?」
俺の話を聞いたダゴ助は、目を飛び出しながら驚く。
いちいちリアクションが大げさな魚人だ。
まあでも自分がいきなり別の世界に行ってましたと言われたら驚いて当然か。コメント欄も目で追えないほど爆速で流れている。
"別の世界ってマジ?"
"異世界転移やんけ!"
"マジかよトラック轢かれてくる"
"え、これ配信で流していい情報なの?"
"SNSも掲示板も大盛り上がりで草"
"ダンジョンとモンスターがどこから現れたのか、今までなんも分かんなかったからなあ"
"この配信リアタイしててよかった……"
"ガチで歴史的瞬間に立ち会えて草なんだ"
"わいも異世界に行きたい人生だった……"
"魚人転生 ~ダンジョンに飛ばされたと思ったら異世界だった件。鬼強い剣士に襲われたけど、命を救われたので舎弟になります~"
"ラ ノ ベ 化 決 定"
"ダゴ助くん主人公やんけ"
"ワンチャンここからヒロイン化の流れも……"
"こんな磯臭いヒロイン嫌だ……"
あまりの盛り上がりに目で追いきれない。きっとSNSも大変なことになっているだろう。
この情報を得た各国の政府も大慌ててで動いているだろう。堂島さんも色々と対応に追われているはずだ。
……正直、予感はあった。
ダゴ助は他の世界から来た存在じゃないのかという予感が。
配信を一旦切って、その情報を秘匿するという選択肢もあったけど、俺はそれを選ばなかった。なぜならこの問題は世界中で共有するべきだと思ったからだ。
俺一人で抱えきれるものじゃないし、秘匿すればダゴ助は世界中からその身柄を狙われる。
まあ今の段階でも他国はダゴ助の身柄を欲しがるだろうけど、こいつの情報をオープンにすれば、ある程度ちょっかいを出してくる人数は減るだろう。
こいつの安全を確保するためにも、こいつの持っている情報は全て吐き出させて公開しなきゃいけない。情報は武器だが、その価値の高さゆえ時として自分を傷つけてしまう。
「あ、兄貴っ! 俺はもう元の世界には戻れねえんでしょうか!?」
ダゴ助は半分泣きながら問いかけてくる。
見た目はおっかないけど、こいつは気弱な性格をしている。突然のことに心が追いつかないんだろう。
「……正直なところ、分からない。どうやって世界を渡るのか、その方法を知ることができればいいけど、なんの手がかりもないのが現状だ」
「しょ、しょんなあ。うおおお……俺はここで一人ぼっちなのか……」
肩をガックリと落としてうなだれるダゴ助。
不憫に感じた俺は、その肩にポンと手を置く。
「帰す方法は分からないが、こっちの世界にいる間は俺が面倒を見る。ここで会ったのもなにかの縁だからな。だからその……元気出せ」
「あ、兄貴……!」
ダゴ助は目を潤ませると、突然抱きついてくる。
「うおおおおっ! 俺は感動しやした! 一生兄貴についていきますっ!」
「やめろ! 鱗が痛いし磯臭い!」
"めっちゃ懐かれて草"
"まーた攻略してる"
"さすが攻略組だ……"
"わいも田中に口説かれたい"
"トゥンクしちゃった"
"ダゴ助ェ! そこ代われ!"
"田中ヒロインレース板が盛り上がるな"
"そんな板あるのか……"
俺は引っ付いてくるダゴ助を引き剥がし、距離を取る。
EXランクなだけあって力が無駄に強くて難儀した。次やったらグーで殴るとしよう。
「ふう、それじゃあひとまず一回外に出るとするか。それでいいよな?」
ダンジョンの異変はおそらくダゴ助が原因だ。一番下の階層まで行くことはできなかったけど、今はダゴ助を保護するのが先決だ。
もし下に潜ってダゴ助が死ぬなんてことになったら目も当てられない。更に下も気になるけど、こいつを無事地上に送り届けるのが一番重要だ。
「へえ、俺はそれで構いやせんが……いいんですか?」
「ん? なにがだ?」
そう聞き返すと、ダゴ助は俺が想像もしてなかったことを口にする。
「このダンジョンの一番下、やばい奴がいますよね。俺よりずっと強い化物が。それを倒しに来たんじゃないんですか?」
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