第7話 田中、驚く
「グウゥ……」
「……」
俺と魚人は睨み合いながら間合いを測る。
ゆっくりと呼吸を整え、相手の行動を注視しながら……同時に駆け出す。
「グアッ!」
魚人は両手を広げ掴みかかってくる。
その手には鋭い爪が生えている。下手なナイフよりもよっぽど切れ味の高そうな爪だ。さすがにあれが刺さったら痛そうだ。
俺は相手の両手首を掴むことでそれを阻止する。すると、
「ガッ!」
魚人は牙を剥き、俺の首筋めがけて噛みついてくる。
奴の牙も爪と同じく非常に鋭利だ。Sランクのモンスターの肉も食いちぎれそうだ。
もちろんそんなものをむざむざと食らう必要はない。素早く真上に『蹴り』を放ち、魚人の顎を真下から撃ち抜く。
"速すぎて草"
"マジでなにが起きてるか分からんw"
"これがヤムチャ目線か……"
"この先の戦いに俺たちはついていけない"
"最初からついていけてない定期"
"ディープ・ワンくんはようやっとる"
"なんで剣使ってないのにこんな強いんですか?"
"A,シャチケンだから"
"把握"
顎を撃ち抜かれたことで、魚人はその場でふらつく。どうやらちゃんと頭の中に脳があるみたいだ。人間と体の作りは似ているようだ。
俺は魚人の腕をつかむと、その場で自分を支点としてぐるぐると回る。そして充分に勢いをつけた後、魚人を地底湖の方に投げ飛ばす。
「ガアッ!?」
回転しながら高速で吹き飛ぶ魚人は、まるで水切りの石の様に水面を跳ねる。
俺はすぐさま駆け出してその後を追う。そして水上で魚人に追いつくと、その体を蹴り上げて上空に打ち上げる。
"もうめちゃくちゃだ"
"魚人くんよく生きてるな……"
"マジで戦闘規模がZ戦士なんだよなあ"
"戦闘民族やししゃあない"
"そろそろ気弾打ち始めそうw"
"もう水上走っていることに誰も突っ込まないの草なんだ"
"まあ二段ジャンプできるし、それくらいはできるでしょ"
"感覚麻痺してて草"
俺は水面を蹴ってジャンプし上空の魚人に追いつくと、ダメ押しとばかりに蹴り飛ばす。
ズゴン! とものすごい勢いで地面に叩きつけられた魚人は地面にぐったりと倒れる。
「ふう……」
俺も地面に着地し、魚人に近づいていく。
これだけ攻撃すればさすがにしばらく動けないだろう。そう思ったが、魚人は諦めず襲いかかってくる。
「グ……オオッ!」
まだ向かってくるとはたいした闘争心だ。
俺は敬意を込めて、その顔面を思い切り殴りつける。
「ひぶっ!?」
出鼻をくじかれ大きくよろける魚人。
その隙を付き、俺はゴッ、ゴッ、と何度も魚人の顔面を殴る。
"容赦なくて草"
"可哀想になってきた"
"魚人くん顔面ボコボコですよ"
"おっかねえ……"
"こんな奴を奴隷のように使っていた社長がいるらしい"
"そんな奴いるわけ……いたわ"
"マジで命知らずだよな。すげえわ"
"須田再評価路線草"
しばらく魚人を殴るが、一向に魚人は倒れる素振りを見せない。
さすがEXランク、その頑丈さはSランクモンスターの比じゃない。
しょうがない、剣を使ってトドメを刺すか。
そう思って腰に下げた剣に手をかけた瞬間、思いもよらないことが起きる。
「ひいっ! もうやめてくれ! 降参だ降参っ! 命だけは助けてくれえ!」
「…………は?」
突然魚人が
モンスターが言葉を話すなんて、聞いたことがない。ダンジョン経験が長い俺も思考がフリーズしてしまう。
"え?"
"は?"
"まじ?"
"喋ってて草"
"シャァベッタァァァァァァァ!!"
"モンスターって喋れるの?"
"んなわけないやろ"
"人の声真似する鳥モンスターとかは知ってるけど、意志持って喋れるのはいないはず"
"なんでシャチケンの配信はいつもめちゃくちゃになるのか"
"マジで鳥肌立ったんだけど"
コメント欄も大騒ぎだ。
視聴者数もぐんぐん伸びている。モンスターが喋るなんて前代未聞。全世界の人がこの配信に注目しているだろう。
とにかくこんな機会はそう訪れない。慎重に話してみよう。
「お前、喋れるのか?」
「びっくりして襲いかかっただけで悪気はなかったんです! だからなにとぞ命だけは……って、あれ? あんた、俺の言葉が分かるのか?」
なぜか魚人も驚き、目を丸くする。
どうやらあちらさんも言葉が通じるとは思ってなかったみたいだ。
意思疎通ができる相手はモンスターとみなせない。俺は一旦剣から手を離し、戦闘モードを解く。
さて、どうしたもんか。モンスターと殺し合い以外のコミュニケーションを取ったことがないからどうしていいか分からない。
向こうもどうしていいのか分からないのかもじもじしている。戦っている時は恐ろしい顔をしていたが、今はもう人間みたいに見えてきた。
……ひとまず話を聞くためにもリラックスしてもらうか。となればやることは一つ。
俺は
「あの……ひとまず、飯でも食いませんか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます