第9話 田中、宣言する
世界にダンジョンが生まれてから、既に十年の時が流れている。
その間にダンジョンは世界中の研究者から調べ尽くされ、魔素や覚醒者のことはかなり科学的に説明できるようになっていた。
しかしそれでも肝心の『ダンジョン』のことは、ほとんどと言っていいほど解明されていなかった。
どこから誕生したのか。なにが目的なのか。
自然現象なのか。それとも人為的に生み出されたものなのか。
調べれば調べるほど分からなくなる、最大の謎。
牧さんはその謎の一端を解き明かしたのかもしれない。
モンスターがこことは異なる世界から来たのならば、ダンジョンもまたしかりだろう。ダンジョンが違う世界から来たことを証明することができれば、色々な問題が解決するかもしれない。
もしこの仮説を世間が聞いたら興味津々に食らいつき騒ぎ立てるだろう。
だけど俺は……あまり興味がなかった。
「はあ、そうなんですか」
「そうなんですか……ってやけにテンションが低いじゃないか田中クン? 君にはどうでもいいことだったかな?」
「どうでもいいってわけじゃありませんけど……それを聞いても俺のやることは変わりませんので」
「へえ、興味があるね。キミのやることというのは一体なんだい?」
牧さんは興味深そうに尋ねてくる。
少し恥ずかしいけど、俺はその問いに答える。
「決まってます。俺と、俺の大切な人を害する敵を斬る。ダンジョンとモンスターがどこから来た存在だろうとそれは変わりません」
「……ふうん」
牧さんは楽しげに俺のことを見ながらニヤニヤする。
「な、なんですか」
「男子三日合わざればというが、ずいぶん頼もしくなったものだねえ。橘クンも鼻が高いだろう」
「……それはどうも」
牧さんは俺を褒めた後、少し考え込むように煙草の煙を揺らす。
そして俺が想像もしていなかったことを口にする。
「これは政府内でもほとんど知られていないんだけど……最近皇居直下ダンジョンが活発化の
「な、なんですって?」
牧さんの突然の言葉に俺は驚愕する。
皇居直下ダンジョンは俺や天月、堂島さん含む三百人の探索者で攻略し、二百人以上の犠牲を出しながらもなんとか攻略することができた、世界でもトップクラスに高難度のダンジョンだ。
俺たちは七年前、死闘の末に皇居直下ダンジョンを不活性化することができた。しかし再びそれが活性化したとなったら、世間は大騒ぎになるだろう。
皇居直下ダンジョンは特異型ダンジョン。それが活性化するということは、再び東京に大量のモンスターが出現するということだからだ。
「懐かしいねえ。あのダンジョンでの過ごした時間は、私の人生の中でもトップクラスに刺激的な日々だった。今でも鮮明に思い出せるよ」
そう、牧さんは俺たちと一緒に皇居直下ダンジョンに潜ったメンバーの一人だった。
もっとも戦闘員としてではなく、内部を研究する特別調査員として俺たちについてきたのだ。しかし彼女は魔素と科学技術を組み合わせた『魔導科学』によって生み出した兵器を使い、他の探索者たちより活躍しダンジョン攻略に多大に貢献した。
その力のおかげで牧さんは皇居直下ダンジョンから生還、帰還者の一人となってその名を更に知られるようになった。
かつて非合法な研究に手を染めていた汚名は払拭され、魔導研究局の局長にまで上り詰めたのだ。
「なんでそんな大事な情報を俺に教えたんですか?」
「もし再びあのダンジョンを攻略するようなことが起きたら、その鍵になるのはキミだと思ったからさ。だとしたら知っておいた方がいい。その時に迷いが生まれないようにねえ」
含みを持った言い方で、牧さんは言う。
確かにあのダンジョンは俺の師匠が命を落とした場所。俺にとってはトラウマがある場所だと言ってもいい。いざその時になったらためらうかもしれない。でも、
「もしその時になったら俺は行きますよ。
「それを聞けて良かった。またキミとあそこに行ける日を楽しみしているよ」
牧さんは心底楽しそうな笑みを浮かべ、そう答えた。
俺はそんな彼女に礼をして、リリと共に帰路につくのだった。
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