第4話 田中、Sランクになる
「お待ちしてました田中様! ささ、こちらにおかけください!」
俺の顔を見た葉月さんが、笑顔で俺を椅子に案内してくれる。
今いるここは、最初に話をした一般的な受付場所とは違う個室だ。椅子は革張りで座り心地がよくて、机はよい木が使われている。明らかに偉い人と話す時に使う部屋だ。
「えっと……それではさっそく手続きのお話に入ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、大丈夫です」
少し緊張した様子の葉月さんに、俺はそう答える。
九条院さんとの話を終えた俺は館内放送で呼ばれて、ここにやってきた。
上司の人が気をつかってくれたんだろうか。机の上には高そうな日本茶とお茶菓子が置いてある。こんな風にいい扱いを受けるのは慣れてないのでなんかムズムズするな。
「すみません、お待たせしてしまいまして……。すぐに済みますので、もう少々だけお時間をください」
「気にしないでください。私は大丈夫ですから」
九条院さんと話していたおかげで、待たされた感じはまったくなかった。むしろ待ち時間があったおかげであの人と話すことができてよかったと思ってるくらいだ。
皇居直下ダンジョンから生還して以来、『忙しいから』と自分に言い訳して顔を会わせていない人は他にもいる。時間ができた今、ちゃんと会いに行った方がいいかもしれないな。
「まずはSランクの探索者認定証をお渡しいたします。どうぞお受け取りください」
そう言って葉月さんが渡してくれたのは、金色に輝く
そのカードには俺の氏名や探索者ID、そしてランクと顔写真が載っている。……この顔写真、社畜時代のだからひどいな。目が死んでるぞ。撮り直してもらえばよかったな。
「そちらのSランク認定証があれば、ほぼ全ての政府交通機関、公共施設が無料で利用できます。その他にも様々な特典がございますので、詳しくはこちらをご覧ください」
葉月さんはそういって分厚い本を俺に渡す。
ど、どんだけ特典があるんだ。読むのが面倒くさいな……。
「ではお次にネームドモンスターの討伐報奨金になりますが、簡単な手続きをしていただきそれが完了次第田中様の口座に振り込ませていただきます」
「分かりました。ちなみに報奨金の半額は同行した星乃唯に渡したいのですがその手続きもお願いできますか?」
「もちろんです。口座と探索者IDは紐づいておりますので問題なく行えます。それと手続きは代表者である田中さんお一人で大丈夫ですのでご安心を」
葉月さんはそう言って机の上に書類と朱肉を置く。
俺は書類を取って、その中身に目を通す。ざっと確認したけどよくある確認事項だ。特に変なことは書かかれていない。
とっととサインと押印して手続きを終えるか……と思っていたが、俺はある項目で目がとまる。
「え……!?」
そこは報奨金の金額が書かれている項目だった。
そこに書かれている金額は想定していたものよりずっと大きかった。桁がおかしくないか? 俺の社畜時代の年収の数倍あるんだけど……。
「あの、この金額多くないですか……?」
「そんなことありません! ネームドモンスターはかなり危険な個体、しかもバモクラフトはSSランク、討伐できる人は限られています。この値段は適正です」
葉月さんは身を乗り出し、そう力説する。
「それに今回田中様がバモクラフトを倒してくれたおかげで、ダンジョン奥の探索が可能になりました。あのダンジョンの奥は資源回収がそれほどされてませんでしたので、たくさん採取されるでしょう。そこから得られる利益を考えましたら、むしろこの金額は安いと思います!」
「そ、そうなんですか」
熱弁する葉月さんに、俺は少し押される。
それにしてもネームドモンスター討伐がこんなに稼げるとは思わなんだ。
社畜時代にも何体か倒したんだけど……
もしかして……須田の奴、ポッケに入れてたんじゃないか? あいつならやりかねないな。会食とか言って高そうな店によく行ってたしな。あれはお偉いさんじゃなくて美人のお姉さんと行ってたのかもしれない。
くそう、こんなに貰ってるならボーナスくらいくれてもいいじゃないか。今になって怒りがふつふつと湧いてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます