第17話 田中、見守る

"ええ!? ゆいちゃん危ないって!"

"なにやってんの! 逃げて!"

"シャチケン早く助けに行って!"

"ちょ、マジでやばいって!"


 バモクラフトの行く手を遮るように立つ星乃を見て、視聴者たちはそうコメントを打ち込む。

 確かに傍から見たらかなり危険な光景だ。手負いとはいえ、相手はSSランクのモンスター。まだ若い星乃の手には余る存在だ。

 だけど、


「まあ少しだけ見ててくださいよ。後悔はしないと思いますよ」


 俺はそう言って手を出さず傍観する。

 今星乃は自分の殻を破ろうとしている。こういったチャンスはそうやっては来ない。見守るのも師の役目だと師匠に教えてもらったからな。


 もちろんいつでも助太刀できるように準備はしておく。後は星乃次第だ。


『ブオオオッ!!』


 バモクラフトは咆えて星乃を威嚇する。

 虚勢を張ってはいるが、隙あれば逃げようとしている。星乃もそれに気がついているみたいで、下層へ続く道を通らせまいと位置取っている。


「お父さんは相手が強くても逃げずに戦った! それなのにお前が逃げるなんて許さないっ! 戦え……私と戦えっ!」

『ブ、ウウウ……オオッ!!』


 逃げることは叶わないと判断したのか、バモクラフトは背中から一本の剣を引き抜き、星乃に斬りかかる。

 するとその瞬間、星乃の体から魔素が噴出する。


"うおっ!? なんだ!?"

"覚醒した!?"

"スーパー星乃マンになったか"

"マジかよやっぱサイヤ人だったか"

"こ、こんなに強かったの? 相手SSランクやぞ?"

"シャチケンはとんでもない者を育てていきました……"


 星乃のあの魔素の出方……もしかして『追覚醒』か?

 驚いた。アレを自由に使えるなんて俺を含めて世界に数人しかいないというのに。まさか使えるようになっていたなんて。


 なるほど、バモクラフト相手に生き残っていられたのはあの力のおかげということか。


「はああああっ!」


 星乃は両手で剣を振るい、バモクラフトの剣を正面から受け止める。

 ガギィン! という音と共に衝突する二つの剣。両者の力は拮抗しており、二人は剣を交差させたまま膠着する。


"ええ!?"

"すご。互角じゃん"

"相手はSSランクだぞ!?"

"ゆいちゃんってこんなに強かったの!?"

"やっっっば"

"少し前までオーガ相手に苦戦してたのに……どんだけ強くなったんだよ"

"鷹が鷹を育てたな"

"シャチケンの育成能力高すぎる……"


「ぐぎ、ぐぎぎぎ……」


 星乃は相手の剣を受け止めながら、つらそうに声を出す。

 無理もない。彼女の体内にもう魔素はほとんど残ってない。俺が来るまでに追覚醒でほとんど使い果たしてしまったんだろう。


 ほんの少しだけ残った魔素をかき集めて無理やり使ってなんとか戦っているけど、そんなの長くは保たない。このままじゃジリ貧だ。

 そう思った俺は、声を張り上げて星乃に伝える。


「星乃! 出し惜しみするな、全部使え! 後のことは気にするな!」

「田中さん……! はい! 分かりました!」


 星乃は俺を見ながら頷くと、体内の魔素を一気に燃やす。

 吹き出る力の奔流が、彼女の肉体を限界まで強化させる。その力を前に、徐々にバモクラフトは押されていき……最終的にその剣は弾かれてしまう。


『ブオッ!?』


 驚愕の表情を浮かべるバモクラフト。

 まさかこんな小さな存在に力負けするなんて。とでも言いたげだ。


 まあ確かに星乃は強そうには見えない。

 だけど星乃は俺が見込んだ戦士だ。その力は俺のお墨付きだ。


「これで終わりだっ!」


 星乃は剣を両手で握ると、思い切り振り下ろす。

 その剣の振り方に、俺は見覚えがあった。


「あいつ、いつの間に……」


 その技は我流剣術、『剛剣・万断よろずだち』に酷似していた。

 俺が一度だけ星乃に見せたことがある技だ。星乃はその技をほぼ完璧に再現して見せた。あれは一朝一夕で身につく動きじゃない。きっとあれからずっと自主練していたんだ。


「はあああああああっ!!」


 星乃の剣は硬いバモクラフトの皮膚を容易く裂き、その体を斜めに深く切り裂いてしまう。

 バモクラフトは星乃の体に手を伸ばそうとするが……その手は空を切った後、力無く垂れ下がる。


『ぶ、お……っ』


 目から光が失われ、バモクラフトは今度こそその命を落とし、倒れる。

 それと同時に星乃もふらっと前に倒れそうになる。どうやら魔素を使い果たしてしまったみたいだ。


 俺はすぐさま彼女の側に駆け寄り、その体を受け止める。


「よく頑張ったな。さすが俺の弟子だ」

「田中……さん。わたし、私……やりました」


 震えた声で呟く星乃。

 俺は「凄かったぞ」と励ましながらその背中をなで続けるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る