第8話 田中、過去を知る

 ミノタウロスとの戦闘を終えた俺たちは、その後も八王子ダンジョンを奥へ奥へと進む。今までは自然豊かなダンジョンだったけど、だいぶ自然が減って洞窟のような場所になってきた。

 それにしても中層にしてはだいぶ魔素濃度が濃いな。肌が少しピリピリしてきた。


 この濃度は深層クラスに近いな。まだ中層だというのにここまで濃度が高いのは珍しい。

 魔素濃度が高いと、凶悪なモンスターが出現しやすい。下層が立ち入り禁止になっているのも頷けるな。


「もう少しで、目的の場所に着きます」

「分かった」


 星乃は早歩きで進む。

 その様子は焦っているように見える。ここのダンジョンを今回の配信場所に選んだのは星乃だ。家から近いからここにしたと打ち合わせの時話していたけど、理由はそれだけじゃなかったみたいだな。いったいなにを見せようとしているんだろうか?


"この先になにがあるんだ?"

"うーん、この先は立ち入り禁止になってるはずだけど"

"なんで立ち入り禁止になってるんだっけ?"

"八王子ダンジョンの下層は危険って聞いたことあるわ"

"あー、なんか前に危険なモンスターが出たんだっけ?"

"お前ら詳しいなw"

"やけに迷いなく進んでるけど、ゆいちゃん来たことあるのかな?"


 それから歩くこと数十分。

 俺たちはついに目的地に着いた。


「ここは……」


 そこは行き止まりになっていた。

 まだ先にダンジョンは続いているみたいだが、道は鉄の扉で固く閉ざされている。いくつも錠がかけられ、絶対に開けられないようになっている。

 どうやらここより下はかなり危険なようだ。


 そしてその扉の前には、大きな白い石碑せきひが立てられていた。

 その石碑には『慰霊碑』と刻まれており、他にも十人くらいの名前が彫られていた。


「…………」


 星乃は持ってきていた荷物の中から花を取り出すと、慰霊碑の前に置く。

 そして手を合わせ、祈るように頭を下げる。


 しばらくそうしていた彼女は、頭を上げると俺の方を振り向く。


「今から数年前、ここで事件が起きました。突然中層に『SS級』のモンスターが現れたんです」

「中層にSS級が? それは珍しいな……」


 SS級はS級より強いモンスターだ。その数が少なく、深層ですら滅多にお目にかかることができない。

 例えばダンジョンコアを守っている『ダンジョンボス』とかじゃないと出会うことは難しい。


 その強さはS級モンスターの比ではなく、S級探索者のパーティでも勝つのは難しいだろう。そんな化物が中層に現れたら大変なことになるのは容易に想像がつく。


「運の悪いことに、その時はたまたま複数のパーティがこのダンジョンを探索していました。その中にはA級の探索者も何人かいたようですが、そのモンスターには歯が立たなかったようです」


 相手がSS級モンスターであれば当然の話だ。

 仮にS級の探索者がいたとしても倒せなかっただろう。


「モンスターは何人もの探索者を殺しました。その規格外の強さを見た探索者たちは逃げましたが、そのモンスターは執拗に探索者たちを追いかけてきたそうです。そんな中、一人の探索者がそのモンスターに立ち向かい、みんなが逃げる時間を稼いだそうです」


 そう言って星乃は慰霊碑に大きく書かれた名前を手でなぞる。


「星乃剛……私のお父さんです。お父さんはB級の探索者でした。お父さんは一人剣を持って、そのモンスターと戦ったんです。そして自分の命と引き換えに……逃げた人たちの命を守ったんです」


 そう語る星乃の顔は悲しそうで、でもどこか誇らしげだった。

 亡くなった父親のことを誇りに思っているんだろう。

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