第5話 田中、受け止める
ミミックを撃退した俺たちは、ダンジョンの中を更に奥に進む。
ここら辺はもう完全に中層だな。ダンジョンは深くに行けば行くほど自然が少なくなることが多いけど、ここは相変わらず自然豊かだ。そのせいか動物型のモンスターが多い。
「牛のモンスターとか出てくると、美味しい料理が作れるんだけどな」
「牛なら私も大好きです! 田中さんと食べた焼肉美味しかったなあ……」
星乃はそう言いながら恍惚とした表情を浮かべている。
ミミックの
"牛型のモンスターならい食えるんだ"
"まあダンジョンで取れる素材の飯なら前にシャチケンと食べてたしな"
"正直俺もダンジョン飯食いたい"
"魔素に耐性ないと一瞬で中毒起こすのが怖いんだよなあ"
"そもそも市場にそんなもの出回らんw ほとんどのモンスターは倒したら肉消えるしなw"
"てかゆいちゃん、田中と焼肉行ったって言わなかった? 聞いてないんやが!?"
"あーあ、漏らしちゃったね"
"若い男女が焼肉……なにも起きないはずがなく"
"まあ待て、まだ慌てる時じゃなばばばばばばb"
"お前が落ち着け"
"チクショウ! わいもシャチケンの食べる肉焼きたかった!"
"嫉妬の仕方が独特で草"
星乃の発言でまたコメント欄が盛り上がっている。
あの時は足立もいたし、そんなことは起きてないんだが……まあ変に弁解しても火に油を注ぐだけなので止めておこう。沈黙は金より尊いのだ。
と、そんなことを考えながら歩いていると、俺たちの前にあるモンスターが二頭現れる。
『ぶるっ』
『ぶるるるる……』
鋭く尖った二本の角を持つ牛たちだ。
だがその牛には角以外にも普通の牛とは違った特徴があった。
それは背中についた
角のような素材でできたその装置は、ウウウゥゥゥン……と低い音を出している。
「田中さん。あの牛って……」
「あれは『ロケットブル』だな。珍しい」
ロケットブルは名前の通りロケットの如き速さで突進してくる牛型モンスターだ。
背中に付いた
幸い横方向への移動能力は高くないから、ジグザグに逃げれば意外と逃げ切れる。
ただ焦るとまっすぐにしか走れないことも多い、背中から突進されてやられてしまう探索者もたまに現れる。
「ロケットブルを食うのは久々だ。脂が乗ってて美味いんだよなあ」
"食事済みで草"
"ダンジョンの食えそうなもの全部食ってそうだなw"
"食えなそうなものまで食ってるぞ"
"まあショゴスは確実に食えないものだからな"
"でもシャチケンの配信見てると美味そうに見えてくるから怖い"
"もうそういう本出してくれ、買うから"
"特訓回かと思ったら飯回だった"
"おなかすいた"
ロケットブルは俺たちを敵とみなしたようで、威嚇しながらその角をこちらに向ける。
「ど、どうしましょうか。私戦ったことないです」
「じゃあまず俺が手本を見せよう。星乃は二頭目をやってくれ」
「わ、分かりました! 頑張ります!」
一歩前にでて、ロケットブルと向かい合う。
するとロケットブルは『ブルルッ!!』と大きく鳴いた後、地面を蹴る。
それと同時に
俺はその高速の一撃を……正面から「ふんっ」と受け止める。
「よし、捕まえた」
『ぶもっ!?』
突然の出来事に、ロケットブルは困惑したような鳴き声を出す。
"知ってた"
"なにしれっとロケット止めとんねん!"
"まったく見えんかった……気づいたら止めてて草なんだ"
"普通横に回り込んで、側面から攻めるのが攻略法なんだけどね……"
"前から止められるなら前から止めたほうが速い(脳筋)"
"力こそパワー"
"ヤー!!!!"
"ここからが田中なんです"
"パワー!!!!!!"
俺は角を抱えたまま、背中を思い切り反らして腕を上げる。
「ほっ」
『もももっ!?』
垂直に持ち上げられるロケットブルの体。
そのまま俺は体を後ろに倒し、ロケットブルの背中を後ろの地面に思い切り叩きつける。
バンッ!! という物凄い音が鳴り、ロケットブルは『ブモッ!!??』と鳴いて絶命する。
そして体は魔素へと還り……脂の乗った肉が数キロほどその場に残される。ロケットの推進力に耐えられるほど強靭な肉は、倒しても残ってくれるのだ。
"ブレーンバスターで草"
"田中バスターじゃん"
"なんて恐ろしい技を……"
"モンスターにプロレス技かけるなw"
"これが実戦プロレスか"
"プロレス団体はシャチケンを囲め"
"集客はできるけど、相手するの嫌過ぎる……"
"絶対手加減とか分からないよ田中は"
"違うぞ、手加減しても死ぬだけだぞ"
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