第3話 田中、かち割る

「宝箱って私初めて見ました! なにが入ってるんですかね?」

「待て、不用意に開けないほうがいい。宝箱には罠がかけられていることが多いからな」

「す、すみません。そうですよね……」


 開けたら毒が噴出したり、トゲが生えたり、天井が落下してきたり、モンスターハウスの中に転移させられたり。宝箱に仕掛けられた罠は豊富にある。

 不用意に開けて命を落とした探索者もたくさんいる。


"確かに罠は怖いな……"

"探索者の死亡割合でも、罠の比率は高いからな"

"特にミミックだと即死だからな。ほんま怖いわ"

"ミミックってあの宝箱に擬態しているモンスターだろ? 下層級のモンスターなのに上層にもたまに出てくるから怖すぎる"

"一度動画でミミック見たけど、見た目も怖すぎた。俺が探索者だったら宝箱なんて開けないね"


「それでどうするんですか田中さん? 罠を見破る方法はあるんですか?」

「あるにはあるけど、俺はそれを習得していない。『宝箱見極め検定』『ミミック見極め検定』を取れば見極められるらしいけどな」


 それらの検定を持っている人は斥候スカウトととして重宝される。

 戦闘能力が低くてもダンジョン探索パーティに入れてもらえるから、検定を取ろうとする人は多い。でも検定はかなり難しいらしくて、毎年数名しか合格できないみたいだ。


 他にも『宝箱鍵開け検定』『宝箱中身見極め検定』などもあるあらしい。

 だけど俺はそれらを一つも取っていない。


「そもそもだいたいの宝箱は鍵がかかってるしな。それを開けるのは中々骨が折れるんだ」

「うーん。じゃあ宝箱は諦めるしかないんですかね?」

「いや。そんなことはない。いい方法がある」


 俺はそう言って宝箱の前に座り込む。


"……嫌な予感がする"

"宝箱くん! 逃げて!"

"どうせまた脳筋解決だぞ"

"知ってたコメ用意しとくわ"

"まーたなにかしでかそうとしてますよこの人"


 俺は宝箱の真ん中に狙いをつけて、手刀を打ち込む。すると宝箱の上蓋部分がミシャ! と音を立てて粉砕される。

 鍵が開けられないなら、壊せばいい。罠が発動するなら、耐えればいい。

 宝箱の出す毒くらいなら全然耐えられるしな。


"知ってた"

"知ってた"

"やると思ってたよ……"

"宝箱って不破壊オブジェクトじゃないんやね……"

"いや、見た目と違ってかなり硬いはずだけど"

"これを真似して武器をぶっ壊す初心者が大量出現するな。勘違いするなよ、普通壊せないから!"

"宝箱くん「ぬわああああ!」"

"宝箱くうううううん!"

"鱗くんを思い出す壊れっぷりだぜ"


 さて、中身はなんだろうか。

 面白いものだと嬉しいけど……と中身を見ると、宝箱の内側から鋭利な牙と大きな舌が飛び出てくる。

 それだけじゃない。宝箱から手足が生えて、けたたましく鳴く。


『ゲギャギャギャギャギャ!!』


 宝箱に擬態したモンスター、ミミックだ。

 上層にいるとは珍しい。俺も見かけたことがあまりない珍しいモンスターだ。


"ミミックキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!"

"ほんまに出た!"

"蓋をぶっ壊されたせいでめっちゃ怒ってるw"

"そりゃ寝てたら顔面に手刀ぶちこまれりゃ怒るわな笑"

"めちゃくちゃ怖くて草"

"ミミックって凄い強いんじゃなかった? 大丈夫?"

"いや、相手が悪いので……"


 ミミックは俺に牙を向けると、くちを大きく開いて襲いかかってくる。

 どうやら俺を食べるつもりのようだ。


『ゲーギャギャギャギャ!!』

「うるさい」


 もう一発、蓋の部分に手刀を打ち込む。

 するとミミックは『ゲギョ!?』という断末魔と共に真っ二つになってしまう。ふう、これで静かになった。


"ミミックくーん!"

"あっという間に退場して草"

"一応下層級の強さあるんだけどね……"

"なにって……手刀をしただけだが?"

"鱗「あいつの手刀は俺が保証する」"

"当事者は語る"

"ミミックバキバキになってて草"

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