第2話 田中、成長を見守る

 八王子ダンジョンの中は広く、自然が豊かだった。

 地面は草で覆われていて、木もたくさん生えている。ダンジョンの多くは洞窟のように草木がほとんどないので、こういったダンジョンは珍しめだ。


 まあ中には水で満たされていたり全面ガラス張りみたいなもっと特殊なダンジョンもあるのだけど。


「……っと、早速お出ましだな」


 ガサガサ、と近くの茂みが動き灰色のオオカミが姿を表す。

 上層に出現するモンスター、灰毛狼グレイウルフだ。

 特に能力は持っておらず、地上の狼より少し強い程度のモンスターであり、ダンジョン初心者くらいしか苦戦しないモンスターだ。


「やれるか?」

「はい! もちろんです!」


 尋ねると星乃は自信満々といった感じで前に出る。

 背にある大剣を抜き、堂々と構える。


『グルル……』


 グレイウルフの総数は七。

 腹を空かせているようで、よだれをボトボトと垂らしながら、ゆっくりと窺うように星乃に近づいてくる。


"ひいっ、こわ"

"上層のモンスターでも普通に怖いな"

"グレイウルフですら拳銃はじくくらい硬いからな"

"やっぱ覚醒者って化物だわ"

"よだれボトボトで草"

"ゆいちゃん美味しそうだししゃあない"

"通報しますた"


 グレイウルフたちはしばらく星乃を観察した後、一斉に駆け出し襲いかかってくる。

 どうやら正面から勝てる相手だと踏んだようだ。まあ星乃は普通に見たら非力なかわいらしい女の子にしか見えないからな。


 ただその細い腕には物凄い力が詰まっている。鍛えていけば、いずれ俺を上回ってくれうと思う。


「えーーいっ!」


 星乃は剣を振り上げ、それを地面に・・・叩きつける。

 轟音とともに地面がえぐれ、前方に凄まじい衝撃波が放たれる。


『キャウ!?』


 至近距離で衝撃波を食らったグレイウルフたちは、甲高い声を出しながら、倒れる。

 そしてサラサラと体が消えていき、そこにはグレイウルフの牙だけが残される。ダンジョン内のモンスターの体は魔素でできていて、倒されると魔素の結合が弱くなり死体は消えてなくなるのだ。

 魔素の結合が強い部分、モンスターによってその部位は違うが、だいたい牙や角みたいな部分は残ってくれる。

 深層にいるような強いモンスターだと全身が残ったりするけど、下層以上のモンスターはほとんどが消えてしまう。


「やりました! 田中さん!」

「うん、いい攻撃だったぞ」


 会う度星乃の動きはよくなっていっている。

 きっと普段から練習をしているんだろう。家族を養うため、頑張っているんだ。


"地面ベコベコに凹んでて草"

"グレイウルフくん、一発でやられちゃった……"

"ワンヒットセブンキルやん"

"さすが力の二号"

"早く三号ベビーが見たいぜ"

"これで十九歳ってマ? 普通にA級以上の強さあるよね"

"日本探索者界の未来は明るいな"

"シャチケンがいるだけでピカピカだろw"


「上層の敵じゃもうそんなに特訓にはならなさそうだな。とっとと中層に向かうとするか」

「はい! 分かりました!」


 俺たちは早足でダンジョンを駆け下りていく。

 グレイウルフの時に派手にやったからか、上層のモンスターはビビって襲ってこなかった。

 おかげですぐに中層付近まで到達することができた。


「……ん?」


 走っていた俺は、中層に差し掛かったところである物を見つけ、立ち止まる。

 隣を走っていた星乃も、それに気がついて立ち止まる。


「どうしたんですか?」

「いや、いい物を見つけてな」

「いい物?」


 首を傾げる星乃。

 俺は彼女を連れて、ダンジョンの壁際まで移動する。

 すると木に隠れたところに、木製の宝箱が出現する。木に隠れていたこれの端っこが、たまたま目の端に入って見つけられたのだ。


"お! 宝箱じゃん!"

"中になにが入ってんだろ"

"ダンジョン探索の醍醐味のひとつだよな"

"ていうかなんであんな爆速で走ってて宝箱見つけられるんだよ……"

"答え、シャチケンだから"

"知らかったのか? 田中の目からは逃れられない……!"

"田中アイなら透視力"

"その内壁の裏側見えるとかいい出しそうで怖い"


 なんかコメントでわいわい言われているけど、スルーする。

 みんな好き勝手言ってくれるんだよなあ。ネットではやったことないことまでできると言われていて、迷惑だ。

 俺のゆっくり解説動画をこの前見たけど、そこで俺は水の上を走れるとか解説されてたし。

 そんなこと配信内でやってないのに……はあ。


 いや、それくらいはできるけど、やってないのにできるとか言わないでほしい。

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