第17話 田中、たくさん斬る

Tekeliテケリ-li‼︎』


 ショゴスは俺に斬られた体を修復すると、物凄い勢いで俺に突進してくる。

 酸も触手による攻撃も効かないと見て、押し潰す作戦にシフトしたみたいだ。脳があるかも分からない生き物なのに知恵が回るな。


"まだ諦めないとショゴスくん頑張るじゃん"

"いい根性してるよ"

"ショゴスくんならいいとこいけるよ。期待してる"

"ショゴスを応援する流れなの草"

"こいつガチの天災級モンスターなんだけどね……w"

"もう萌えキャラ化してるししゃーない"

"どっちもがんばえー"


 俺は剣を構え、まっすぐにショゴスを見る。

 さっき斬った傷はもう綺麗に治っている。やっぱり普通に斬ってもダメージは与えられないみたいだ。こいつの体内にある核……ダンジョンコアを破壊しないことには倒すことは不可能だろう。


 とはいえこいつの体はスライムみたいに半透明ではなく、真っ黒だ。外からどこに核があるかなんて全く分からない。

 全部食べ尽くすという手もあるけど、今はそこまで腹が減っているわけでもないし、別の手にしよう。


「我流剣術、烈空れっくう


 剣を振るうと真空波が生まれ、ショゴスの体が縦に真っ二つに斬り裂かれる。

 俺は二つに分かれたショゴスの体をよく観察する。

 すると俺から見て右半分の体がうにょうにょと動き、左半分とくっつこうとする。間違いない、ショゴスの核は右側の半身にある。


「烈空」


 今度はショゴスを横に斬り裂く。

 すると今度は下の半身が動き始める。


「烈空、烈空、烈空」


 なので今度はそちらを半分に。そして更に半分、半分、と俺はどんどんショゴスの体を小さくしていく。


"ショゴスくんスパスパで草"

"ショゴスくん、小さくなっちゃった……"

"西海岸の怪物がこんな簡単に……俺は夢でも見ているのか?(英語)"

"海外ニキ元気出して"

"ニキの国のショゴスもシャチケンがやってくれるでしょ"

"田中を海外に貸し出したくないなあ"

"堂島さんがいるとはいえ、シャチケンがいなくなるのは怖いよね"

"一国に一台シャチケン配備すべきだな"

"それは流石に世紀末すぎるだろ"

"多けりゃ多いで怖いな"


 何度も何度も斬られたショゴスは、最終的に野球ボールほどの大きさにまで小さくなる。

 その状態でもう一度斬ると、その断面から最初に見たダンジョンコアが外に出てくる。


"出た!"

"コア「やあ」"

"コアくん、やっと会えたね……"

"ショゴスくんの大切なとこ、見えちゃったねえ"

"いっけえシャチケン!"

"いけるで田中ァ!"

"嘘だろ!? 本当にショゴスを倒してしまうのかい!?(英語)"

"おお、東洋の神秘だ……(ヒンディー語)"

"インド人まで見てて草"

"まあショゴス被害大きいからね……"

"てかもうコメント多すぎて追えん"

"どこがどこの言語か分からんなw"

"いあ! いあ! くとぅるふふたぐん!(不可解な言語)"


 俺はビー玉ほどの大きさのコアを凝視する。

 脆い箇所……が見えない。どうやらこのコアはかなりの硬度を持っているようだ。


 おまけにコアは完全な球体、『真球』に近い。

 球体は衝撃に強い、普通の攻撃ではコアに傷をつけることすら不可能だろう。


 だが完全な真球なんてものはこの世には存在しない。必ずどこかに綻びはある。


「……見つけた」


 コアの一点にほんの僅かな凹みを見つける。

 大きさは1ミクロン程度だが、剣先を引っかけるには充分だ。


 俺は右手で剣を強く持ち、その切先きっさきをコアに向ける。

 するとショゴスは身の危険を感じたのか、コアに目玉を出現させ、俺を見る。そしてコアから触手を二本出して俺を攻撃してくる。


Tekeテケ‼︎」


 しかしその攻撃が俺に命中するよりもはやく、俺の刃がコアにたどり着く。


「橘流剣術、彼岸ひがん一輪挿いちりんざし」


 正確にコアの僅かな凹みを突いた俺の刃は、パリン! と音を立ててショゴスのコアを一撃で粉砕する。

 それと同時にショゴスの肉体はボロボロと崩れ、溶けていってしまう。


Tekeliテケリ.li......』


 ショゴスは消えるその瞬間まで俺のことをじっと見ていた。

 その目に敵意はない。むしろ友好的な視線だと感じた。


「お前は強かったよ。だけどかわいい弟子の手前、負けるわけにもいかないんでな」

『......tekeテケ


 最後に満足そうな声を出しながらショゴスは消える。

 こうして俺の休日出勤は無事終業おわりを迎えるのだった。

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