第16話 田中、食べる

"く、食ったああああ!?"

"さすがに草"

"なに食っとんねん!!"

"呑気に食レポしてるのさすがに草"

"ショゴスって食えるんですねえ(錯乱)"

"そんなものぺっしなさい!"

"パクパクですわ!!"

"いや、確かにダンジョンのもの食ってるとは過去配信で言ってたけど……"


「そ、そんなもの食べて大丈夫なのですか……?」

Tekeテケ……?』


"凛ちゃんめっちゃ困惑してて草"

"ショゴスくんも『大丈夫なの?』って顔してて大草原"

"萌えキャラ化しとるやんけ!"

"ショゴスくんもドン引いてますよ"

"まさか自分が食べられるとは思ってなかっただろうなw"


 気づけば凛とショゴスが俺のことを心配そうに見ている。

 コメント欄も爆速で流れ入るし、食べたことでかなり驚かれているみたいだ。


 モンスターを食べることは俺にとっては特別なことじゃないんだけど、まあ他の人から見たらショッキングな光景か。


「心配しないで大丈夫だ。ちょっと胃がヒリヒリするけど、これくらいなら消化できるレベルだ」

「先生が大丈夫ならよいのですが……。それよりなんでこのような物を食べたのですか?」

「モンスターを食べる利点は三つある。一つは体内の魔素量を増やせること。モンスターを食うことでその中にある魔素を体に取り込むことができる。魔素量が増えれば体は強くなる。当然魔素許容量を超えると中毒を起こすから、食べる量やモンスターの種類には気をつけないといけないけどな」


 食うものに困ってモンスターを食った俺だけど、初めて食べた時は凄かった。

 体が拒否反応を示して深層の中で三日間苦しみのたうち回ったものだ。須田に死ぬほど怒られたっけ。


 でもそのおかげで胃が鍛えられて、次からは軽い腹痛で済むようになった。今では普通の食事を取るように食べることができる。


「そして二つ目。食べることで相手のことを知ることができる。これはコツがいるけどな。俺の見立てだとこのショゴスはあらゆる『属性』に耐性がある。火に水に雷、爆発なんかは全く効かない。おまけに殴打耐性もあるから、効くのは斬撃だけ。だけど体に強い酸があるから普通に斬っても先に刃物が駄目になってしまう。これは厄介な相手だよ」

「凄い……そのようなことまでわかるのですね!」


"なんで食べただけでそこまで分かるんだよ!"

"シャチケンのことを常識で測っても無駄だから……"

"舌触りとかで分かるんでしょ(適当)"

"ステータスオープン!(食事)"

"それにしてもショゴスくんの耐性凄いね。そりゃアメリカ軍も倒せないはずだよ"

"爆発耐性があったら現代兵器はほぼ効かんからなあ"

"自分の能力話されてショゴスくん得意げにしててかわいい"

"恐ろしいモンスターのはずなのに……"


「そして三つ目。食べることでそのモンスターの持つ『毒』に耐性を持つことができる。もちろん食べた時はその毒に侵されるけど、それを乗り越えれば耐性を手に入れることができる。俺は毒を持ったモンスターはあらかた食べたから、もう毒に悩まされることはほぼない。解毒薬を持ち歩く手間も省ける」

「なるほど……毒はダンジョン探索の中でもかなり厄介な存在。それに耐性を付けられるのは魅力的ですね」

「ああ。それに耐性が付くのは普通の毒だけじゃない。こいつの持つ『酸』にも耐性がつく」


 俺はゆっくりとショゴスに近づく。


「つまりもうこいつの攻撃は俺には通じない」

Tekeテケ……!?』


 ショゴスは近づく俺に向かって触手を伸ばし、体に巻き付けてくる。

 俺の着ている全局面対応汎用戦闘ビジネススーツ『Kavach《カヴァーチャ》』は、俺の得た耐性をスーツ自身にも反映する能力がある。

 つまりショゴスの酸に耐性を得た今、このスーツもショゴスの酸では溶けなくなっている。


 いくら時間が経っても服すら溶けないので、ショゴスは俺を見ながら首を傾げるようにその大きな体を曲げる。


"ショゴスくん困惑してて草"

"なんで食べるだけで酸に耐性つくんですかね……"

"考えるな、感じろ"

"ショゴスくん困ってるねえw まあ溶かすくらいしか攻撃方法なさそうだしw"

"でも田中も攻撃手段なくね? 全部食うわけにもいかないし"

"シャチケンなら食えるっしょ"

"その光景はさすがに視聴者もトラウマになりそう"


 ショゴスは触手で俺を強く握ってくるけど、それくらいじゃ俺は潰されない。

 すると凛が心配そうに俺のもとに駆け寄ってくる。


「先生、大丈夫ですか!? ど、どうすれば……」

「大丈夫だ凛。こいつの倒し方はもうアテがついている」


 俺は右手の指を伸ばし、手刀を放つ。

 すると俺を拘束していた触手がスパッと斬れて、俺は解放される。


「剣で斬れないなら、耐性の付いた素手で斬ればいい」


 俺はたくさん襲いかかってくる触手を手刀でスパスパと斬りながらショゴスに向かっていく。途中切れ端を食べるくらいの余裕もある。

 うん、この味にもだいぶ慣れてきたな。大根おろしでさっぱりいただきたい。


"ショゴスくんスパスパで草"

"とうとうショゴスくんの目に恐怖が浮かんできたw"

"俺もたぶん鏡見たら同じ目をしてると思う"

"アメリカの軍事力<<<<シャチケンの手刀ww"

"こいつ食べながら戦ってますよ!?"

"なんか美味そうに見えてくるから不思議だ"

"一瞬で口の中溶けるぞw"


Tekeliテケリ-li!!』


 ショゴスに近づくと、突然ショゴスは体に巨大な口を生み出し、俺に噛み付いてくる。

 口の中には歪な形をした巨大な牙がずらりと並んでいる。まだ攻撃手段を残していたみたいだ。


 俺は腰に差した剣を引き抜き、その口めがけて振るう。


「我流剣術、裂空れっくう


 ザン! という音ともにショゴスの巨大な口が両断される。

 その反撃に驚いたのか、ショゴスは俺から距離を取ろうと後ずさる。


"結局剣で斬ってるやん!"

"耐性をつけるとはなんだったのか"

"剣使ってて草"

"ショゴスくん、意外と攻略法あるんやね(混乱)"


 我流剣術『裂空』は、剣を高速で振るうことで刃に風の衣を纏わせる技だ。

 その結果、剣を振るう度に風の刃が相手を斬り裂く。これなら刀身がショゴスの酸に当たることはない。


「もうお前のことはだいたい分かった。そろそろ終わりにしよう」

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