第11話 田中、特異型ダンジョンに入る
無事堂島さんからダンジョンを壊す許可をもらった俺は、コメント欄から目を離す。
新しく生まれたダンジョンを調査もしない内に壊すとなったら、反対してくる議員や団体も多いだろう。そういう人たちは決まってダンジョンに潜ったこともモンスターと戦ったこともない人たちだ。
もしその恐ろしさを肌で知っている人だったら、特異型ダンジョンの破壊に反対なんかしない。少しでも対応を誤れば皇居直下ダンジョンの二の舞いになるからだ。あんなことは二度と起こしてはいけない。
そんな人たちを相手にしてるんだから堂島さんも大変だ。今回の件も軽く引き受けてくれたけど、反対する人を黙らせるのは大変だろう。今度羊羹でも差し入れしてあげよう。
「田中さま。ダンジョンに入られるのですね」
神妙な面持ちでそう尋ねてきたのは若い討伐一課の男性、東堂さんだった。その後ろには彼の部下も数名控えている。
「私たちも助力させていただきます。ダンジョンには我々も何度も潜っていますので」
「いや……今回は私が一人で行きます。あなた方はダンジョンの監視と民間人の救助に当たってください」
既に警察や救急隊が来始めているけど、倒壊している建物もあるから逃げ遅れた人の救助には時間がかかるだろう。討伐一課の人たちはみな覚醒者だから手伝えば百人力だ。
「しかし部外者である田中さまに全てをお任せするのは……」
東堂さんは食い下がる。
彼も政府の人間として引き下がれないところがあるんだろう。
しかし俺としては着いてきてくれない方が助かる。彼らも腕は確かだろうけど、ダンジョンに潜った経験は俺と比べれば多くはない。
普通のダンジョンだったら着いてきてくれても大丈夫だけど、これから潜るのは特異型ダンジョン。
おまけに今このダンジョンは作りたてホヤホヤで、中の構造がどうなっているか分からない。俺の予想だと絶賛建築中で、ドンドン下に広がっていってるはずだ。慣れてない人が対応できるとも思えない。
どうしたものかと考えていると、今まで黙っていたある人物が声を上げる。
「私が先生と入ります。それならいいですよね?」
そう言ったのは凛だった。
凛も討伐一課の一員だから、彼女が入れば一応彼らの面子も保たれるか。
「……そうだな、俺も凛が一緒なら気兼ねなく動ける。そうしてくれると助かる」
そう言うと凛は顔をパッと明るくさせる。
そのやり取りを見た東堂さんは少し考えたあと「分かりました」とそれを了承する。
「事態は急を要しますし、ダンジョンのプロフェッショナルである田中さまの決定に従います。どうか、よろしくお願いいたします」
そう言って頭を深く下げた東堂さんは、部下とともに人命救助に向かった。
残った俺と凛は顔を見合わせ、頷いた後ダンジョンの入口前に立つ。
"新しくできたダンジョンに潜るのなんて見るの始めてだわ"
"そもそもそんな映像出回らないしな"
"めっちゃ貴重な映像だよな"
"ドキドキしてきたわw"
"俺も俺もw"
"すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を"
"特異型ダンジョンは怖いけど……俺は逃げないよ。シャチケンならやってくれるからね"
"騒ぎが大きくなり過ぎてないのは確実にシャチケンならではのおかげだよな"
"俺も安心感あるわ"
"逆に田中が負けたらもうみんな絶望するなw"
"頑張れよ田中ァ! お前が希望だ!"
"息子も応援してます"
特異型ダンジョンに入るとあって、コメントも大盛りあがりだ。
俺を応援してくれる声も結構流れている。こういうのを見るとグッと来てしまうな。期待に応えるためにも頑張らないとな。
そう思っていると、隣に立つ凛がくす、と笑う。
「どうした?」
「いえ、またこうやって先生とダンジョンに潜れると思うと嬉しくて。すみません、今こんなこと考えたら不謹慎なんですけど」
頬を薄く赤らめながら凛は言う。
今日一日彼女といて感じたけど、凛が俺に向ける気持ちはもしかしたら弟子と先生や、妹と兄の間に生まれる気持ちとは少し違う、もう一歩進んだものなのかもしれない。
そう気づけるようになったのは、社畜から解放されて人の心を少しずつ取り戻しているからだろう。
まだ確証が持てているわけじゃないけど、そう思ってくれているならちゃんと向き合わないといけないな。この一件が終わったら誰かに相談してみるのもいいかもしれない。
「さて、久々の休日出勤といくか。凛、行けるか?」
「はい。先生の足を引っ張らぬよう、全力で臨ませていただきます」
そう頼もしく言う凛。心強い限りだ。
入る前に一応コメントに目を落としてみると、魔物対策省の公式アカウントから"おう、乳繰り合ってないではよ入れ"と茶化すコメントがあって、それで盛り上がっていた。
俺は次に堂島さんにあったら文句を言ってやると思いながら、ダンジョンに足を踏み入れるのだった。
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