第10話 田中、バレる

「分かりました。引き分けでいいですよ……はあ」


"シャチケン諦めてて草"

"謝罪会見不可避"

"このおっさん本当に面白いな"

"これが大臣の姿か……?"

"ん? なんかこっち寄ってきてない?"


 堂島さんは俺の前から離れると、今度は配信用のカメラの前に進む。

 そしてレンズに近づきどアップの状態で話し始める。


「視聴者諸君、楽しんでくれたかのう? ワシと引き分けるくらい強い田中が、今や魔対省の仲間になった! それだけじゃないぞ、ワシと田中、天月以外の四人の皇居ダンジョン帰還者にも今声をかけておる。魔対省はこれからどんどん強くなる!」


 堂島さんは胸を張りながらそう宣言する。

 それにしても帰還者を集めているなんてただごとじゃないな。いったいなにをしようとしているんだ?


「見とるか? 日本のダンジョン資源を狙うクソ外人共。色々画策しとるようじゃがのう……ワシは見逃さんぞ。来るなら正面からかかって来るとよい、望み通り叩き潰してやるからのう」


 堂島さんは挑発するようにカメラに言う。

 そうか、これが狙いだったのか。


 日本はダンジョン大国と言われるほど、ダンジョンの出現数が多い国だ。

 その分危険に見舞われることも多いけど、得られる資源も多い。そのおかげで他の国からも一目置かれている。


 ただそのせいで日本を狙う国もたくさんあるらしい。堂島さんはダンジョンの問題だけじゃなくて、そういった他国も相手にしているんだ。


 俺と戦ってみせたのも、力を見せつけて他国を牽制するためだったってわけだ。

 堂島大臣の強さは有名だけど、そんなのが七人も集まりつつあると知ったら手を引く国も多いだろうな。


"クソ外人共は草。かっこよすぎるぜ"

"俺が敵国だったら手を引くわw"

"鬼の堂島は健在だなw"

"帰還者が集まってるとか胸熱すぎるw 未成年だから公表されなかった人とかも来るのかな"

"……てか今、シャチケンも帰還者だって言わなかった? 聞き間違い?"

"ん?"

"えっ"

"あ"

"マジ?"

"そういや言ってた"

"うそ!?"


「あ」


 コメントを見ながら、堂島さんは声を漏らす。

 この人……やりやがったな?


「しまった。これは内緒だったんじゃった」


 うっかりうっかりと自分の頭を叩く堂島さん。

 今の言わなかったことにしていいか? と言うが、これは生配信。当然発言の撤回などできない。すぐにコメント欄は騒がしくなる。


"シャチケン帰還者なの!?"

"ガチの英雄の一人じゃん"

"ヤバすぎる!"

"加工とかほざいてた奴wwwwwww"

"政府に帰還者3人もいるとかヤバすぎ。過剰戦力だろ"

"相手する外人さんが可哀想なレベル"

"マジでなんで社畜だったんだよ!"

"俺はそうなんじゃないかって思ってたよ(後方腕組み古参面)"

"田中ァ! スパチャ送りたいから配信してくれ!"

"アンチさんオーバーキルされてて草"


 目で追うのが大変なほど、大量のコメントが飛び交う。

 この分だとまたSNSやネットニュースで話題になるな……頭が痛い。


「いや、ほんとすまんな田中。あれだったら視聴者全員の頭を小突いて記憶を飛ばしてくるぞ?」

「なんて物騒なこと言うんですか、いいですよそんなことしなくても。もう大人なんですから隠す意味もそこまでありませんからね」

「そうか! いやあ悪い悪い。歳を取ると色々緩くなっていかんな」


 がはは、と笑う堂島さん。

 いいとは言ったけど、また大きく騒がれることは間違いないだろうな。Dチューバーとしてはいいのかもしれないけど、騒がしくなるのはあまり嬉しくないな。


「はあ……また面倒くさくなりそうだ……」


 俺は先のことを考え、一人憂鬱になるのだった。

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