第8話 田中、再び試合する

「はあっ!」


 俺は剣を強く握り、何度も堂島さんに斬りかかる。

 視線の動きによるブラフ。タイミングを外した奇襲。死角からの攻撃。いずれも深層のモンスターにも通用する攻撃だ。


 だけど堂島さんはアホみたいな反射神経でそれらの攻撃に対処してみせた。


「はっは! 随分強くなったのう! 防ぐだけで手一杯じゃわい!」

「よく言うよゴリラジジイめ……」


 涼しい顔をしながら俺の攻撃を受け止める堂島さんに、俺は思わず悪態をつく。

 さて、どうやって活路を見出すか……。


「勝負中に考え事とは感心しないのう!」

「しまっ……!」


 堂島さんが俺めがけて思い切り剣を振るう。

 すると台風の如き衝撃波が発生して練兵場をめちゃくちゃにする。俺はかろうじて避けられたけど、練兵場の壁が一部壊れてしまった。

 床もバキバキだし……これは直すの大変だぞ。


「なに避けとるんじゃ田中っ! 直すのもタダじゃないんじゃぞ! ただでさえ予算が絞られとるというのに!」

「いや俺のせいじゃないですよね!?」


"めちゃくちゃで草"

"どっちも化物すぎるでしょw 何が起きてるか分からんw"

"もうこれ怪獣大戦争だろ"

"モンスターよりモンスターしてる男たち"

"この二人のほうがモンスターだろww"

"逆だったかもしれねえ……"

"てか堂島さんこんなに強かったんだな。いや強いとは聞いたことあるけど"

"アメリカが唯一恐れた男だからな"

"倭国の龍ジャパニーズドラゴンって聞くと外国の老人は震え上がるらしいぞ"


 コメントが盛り上がる中、堂島さんがこちらにゆっくりと近づいてくる。

 おっかねえ威圧感だ。タイラントドラゴンが可愛く見えてくる。


「もっと長く楽しみたいが……伊澄ちゃんが怖い目でこっちを見てくるから早く終わらせるとするかのう」

「それは貴方が練兵場を壊しているからでしょう……」


 そう突っ込むが堂島さんは全く反省した様子を見せない。

 こんなんだから伊澄さんに怒られるんだ。


「先生っ! 頑張ってください!」


 どう攻略したものかと考えていると、そう言葉が投げかけられる。

 声の主は観戦している凛からだった。普段は出さない大きな声を出して俺を応援してくれている。そんなことをされたら、頑張らないわけにはいかないな。


「行くぞ田中っ!」


 堂島さんは嵐のような勢いで剣を何度も何度も打ち込んでくる。

 俺はその攻撃を正面から全て捌き切る。いくら相手の力が大きくても、その流れや向きを変えてしまえば捌くのは容易い。

 大事なのは向きとタイミング。それさえ掴めれば自分より強い力の持ち主にも勝つことができる。


「がはは! たいしたもんじゃ! 柔の剣もしっかり覚えておったか! 橘も鼻が高いじゃろう!」


 楽しげに笑う堂島さん。

 俺の剣の師匠である橘さんは『柔の剣』の天才だった。あの人の見様見真似で俺も多少は使えるようになったけど、あの人に比べれば俺なんかまだまだだ。

 だけどその代わり俺は『剛の剣』も使うことができる。その二つを使えば橘さんの強さに追いつけるはずだ。


"シャチケン、フィジカルモンスターなのに技量もあってやばくない?"

"1号がV3ばりに強いのおかしいだろ"

"【悲報】練兵場くん、ぼろぼろ"

"俺らの血税もボロボロ"

"さすがに大臣のポケットマネーで直すでしょ"

"ていうか木村くん唖然としてるんだけどw"

"護衛対象のはずの大臣がこんなに強いんだからそりゃ唖然ともするw"

"俺の護衛対象がこんなに強いはずがない"


「じゃが受けてばかりではワシから一本取れんぞ!」

「分かってますよ……はあっ!」


 俺が横薙ぎに思い切り剣を振るうと、それを受け止めた堂島さんが後ろに吹き飛ぶ。

 これで距離が生まれた。助走をつけて一気に勝負を決める。


「こい田中ッ!」

「言われなくても行きますよ……っ!」


 俺は体をかがめ、クラウチングスタートで駆け出す。

 一気に最高速度に達した俺は、右手を振りかぶりながら堂島さんに突っ込む。


「こいぃ!」


 剣を構える堂島さんに向かって、俺は背中まで振りかぶっていた右腕を振り下ろす。

 堂島さんはそれをドンピシャのタイミングで受け止めようとするが、堂島さんの剣は防御に失敗する。


 なぜなら俺の右手には剣が握られていなかったからだ。堂島さんでも無い剣は受け止められない。


「……おろ?」


 何が起きたか分からず、困惑する堂島さん。

 その一瞬の隙を俺は見逃さない。


 消えた剣は今、俺の左手が握っている。背中まで振りかぶった時に、剣を逆の手に持ち替えていたのだ。

 正面から見たらまるで剣が消えたように見えるだろう。今まで正面から打ち合ってたからこそ、こういう搦め手が生きる。


「橘流剣術――隠し牙」


 背中に隠していた剣を左手で抜き放つ。

 堂島さんはそれにすぐさま気づき、対処しようとするがもう遅い。上段に上げていたガードは下からの攻撃に間に合わない。


 スパァン! という音と共に俺の剣が堂島さんの右脇腹に命中するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る