第6話 田中、疑いを晴らす
「……」
木村はさっきまでとは違い、片手で剣を持ち警戒しながら俺と対峙する。
その顔からは余裕が消えている。どうやら本気みたいだな。
「はっ!」
木村は急加速し、俺の周囲を高速でシュッ、シュッと駆け始める。
さっきの一撃で正面からの戦闘は不利だと判断したようだ。速さで撹乱し、隙をつくつもりだろう。
"木村くんビュンビュンで草"
"やるやん木村"
"さすがに身体能力高いね"
"木村ァ! 今何キロォ!?"
"はえー、覚醒者って凄いんやね"
確かにさっきまでより全然速くはなっている。
だけど……動きが単調だ。敵を撹乱するにはリズムをズラすのが定石。ただ速く動いているだけじゃ簡単に動きを読むことができる。
「――――ここ」
木村の足音のタイミングが変わった瞬間、俺は右に体を動かす。
すると今まで俺がいた位置に、背後から木村の剣が振り下ろされる。まさか外れるとは思っていなかったのか、木村は驚きの表情を浮かべる。
「二本目」
攻撃を回避した俺はすかさずその胴に剣を打ち込む。
刃がないとはいえ、手にしている剣は鈍器として十分な性能を持つ。木村は「が……!」と苦しげに呻きながら地面を転がる。
"うわ、めっちゃ痛そう……"
"マジで何起こってるか分からんw"
"木村現れたと思ったら地面転がってて草なんだ"
"0.25倍速くらいにしないと分からんでしょ"
"倍速文化に中指立てていくスタイル"
"お、木村くん立ってるじゃん。ガッツあるね"
"加工認定ネットアンチ民も見習えよ。もうみんな逃げたか?w"
「はあ、はあ……」
苦しそうにしながらも木村は立ち上がる。
立ち上がる以上、俺も手を抜くわけにはいかない。殴り合うことでしか分かりあえないこともあるからな。
「行くぞ……!」
木村は何度も手を変え品を変え攻撃してくる。
高く跳躍し、空からの強襲。
回避し突きのカウンター。
武器を囮にし、素手による攻撃。
腕を掴み、投げによる無力化。
息をつかせない連続攻撃。
全てを捌き切ってからの肩へ一撃。
俺は木村の攻撃を全て正面から対処し、無力化してみせた。
そんなやり取りを何度も繰り返していると、木村がその場に膝をつく。どうやら体力の限界が来たようだ。
「ぐ、うう……」
剣を杖のように地面に突き立ててて立ち上がろうとする木村。
しかし打たれた肩が痛むのか上手く立ち上がることができない。すると木村は困ったような顔をしながら審判をしている堂島さんを見る。
どうやらこれで終わりみたいだな……と思っていると、堂島さんが突然大きな声を出す。
「なに情けない顔しとるんじゃ木村ァ!
練兵場が揺れるほどの大きな声に、俺は思わず耳を押さえる。
あ、相変わらず馬鹿でかい声だ……。
「木村。ワシはお主が田中に仕事を頼むことに異を唱えたことには怒っとらん。自分の仕事をよう知らぬ者に取られるなど看過できんのが普通じゃからのう」
堂島さんはそう言ったあと、「じゃが」と付け足す。
「人の強さにケチをつけるのはいただけんのう。それは田中が死ぬ思いで手に入れたもの。半端な気持ちでケチをつけていいもんじゃあない。もしケチをつけるならそれ相応の覚悟が必要じゃ」
……この時俺は堂島さんがなぜ配信したのかが分かった。
きっと堂島さんは俺のアンチを黙らせるために配信してくれたんだ。政府のアカウントで俺の戦いを見せれば、アンチもそれが加工だとは疑えないからな。
「じゃというのに少し不利になっただけですぐに助けを求めおって……情けない。日本男児たるもの、生き恥を晒すくらいなら腹切って死ねぃ! それが嫌なら死ぬ手前までボコられんか!」
"無茶苦茶で草"
"世界観が男塾なんよ"
"令和の江田島塾長"
"木村くん顔真っ青で草なんだ"
"アンチも腹切れよ"
"こんなの配信したらまたニュースで叩かれるぞw"
"またあの反省ゼロの鼻ホジ謝罪会見見れるのか。胸熱"
"堂島大臣ほんとすこ"
"男気の擬人化"
相変わらずめちゃくちゃな人だ。
だけどその言葉に思うことがあったのか、木村は立ち上がって再び俺と対峙する。
「……今までの非礼を詫びる。もう一戦だけ、取っていただけるだろうか」
「……!! ええ、もちろん」
剣を両手で握り、正面に構える木村。
それに習い、俺も同じ構えを取って向かい合う。
そしてしばらくの沈黙の後、木村は「はあああっ!」と
動きこそ最初と同じだけど、その攻撃には強い気迫がこめられていた。
俺はその一撃を……正面から叩きのめす。
「はっ!」
木村の剣が振り下ろされるより早く、俺の剣がスパァン! と木村の頭部に命中する。
強く頭部を打ち抜かれた木村は、数秒耐えたがやがてドサリとその場に崩れ落ちるのだった。
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