第13話 田中、飛ばされる
星乃とともに
無重力空間はこんな感じなんだろうか、とのんきに考えていると唐突に重力が戻る。
「おっと」
「きゃあ!?」
すぐに俺は空中で体勢を立て直して、すたっと着地する。
星乃は慌てて少し暴れたけど、俺ががっしりと抱っこしていたから無事だった。
……着いた場所が暗闇だから目視できないけど、むにゅりと体にやわらかい物が当たっている。こ、これはもしかして相当マズい状態なんじゃないだろうか。
「わ、わざとじゃないんだ。訴えないでくれ」
「うう……そんなことしませんから降ろして下さい……恥ずかしいです」
「そうだな、すまん」
星乃を降ろした俺は、ビジネスバッグ『AEGIS』の中から
それにしても壊れたときのことを見越して、足立が俺に渡してくれていて助かった。ライトも持ってきてはいるけど、ドローンは手が空くから便利だ。
えっと、スマホに接続して、設定をこうして……と。
「お、明るくなった」
ドローンのライトを起動して、周囲を照らす。
俺が飛ばされた場所は、狭い洞窟の中だった。人一人がようやく通れるくらいの幅の洞窟だ、道は前と後ろにずっと続いていて、どちらが出口かは分からない。
厄介な場所に飛ばされたな……これじゃどっちに進めばいいかも分からない。斬って解決出来ないことは苦手だ。
「田中さん。本当にすみません」
「ん?」
振り返るとそこには星乃が申し訳無さそうに立っていた。
今にも泣き出してしまいそうな感じだ。
「私のせいでこんなところまで……。本当にすみません」
星乃はかなり責任を感じてしまっているみたいだ。
俺は全然気にしてないんだけどなあ。普段一人で頑張っている彼女は他人に迷惑をかけることに慣れていなんだろうな。責任感も強そうだし、かなり参っている様子だ。
「本当に気にしなくていい。そもそも星乃はさっきの探索者を守ったからこの魔法を食らったんだろう? 何もミスしていないじゃないか、責任を感じる必要はない」
「……でも、そのせいで田中さんを危険に晒してしまいました」
「確かにここは魔素濃度が高い。多分『深層』だろう。だけど俺はいつも深層で働いていたんだ。いわば深層は俺にとって職場みたいなものだ。気にしなくていい」
そうおどけるように言うと、星乃は転移してから初めて「ふふっ」と笑みを浮かべる。
「田中さんは本当に不思議な方ですね。本当なら絶望的な状況のはずなのに……なんだか平気な気がしてきました」
「どうやらもう大丈夫みたいだな。それじゃあ早速脱出する作戦を立てよう」
「はい。あの……もしここを出ることが出来ましたら、絶対にお礼はさせて下さいね! 私お金はありませんけど……私が出来ることならなんでもやりますから!」
星乃は気合十分な感じでそう言う。
今この様子が配信されてなくて良かった。もしされていたらコメントが大騒ぎだっただろうな。
「それじゃあまずは出口を探す方法だけど……ん?」
そこまで言っておれはあることに気がつく。
星乃は明らかに顔色がよくなかったのだ。もしやと思った俺は、彼女の額に手を当てる。
「……熱いな。明らかに熱がある」
「あ、あの。私大丈夫ですから」
「いや、駄目だ。この症状から察するに、星乃は今『魔素中毒』になりかけている。この状態で歩き回るのは危険だ」
魔素中毒。
それはダンジョン内に溢れている『魔素』を摂取しすぎた時に現れる反応のことだ。
たまり過ぎた魔素を体が排出できず、体調不良を起こす症状で。もし悪化すると死に至ることもある。覚醒者は魔素への耐性が強いけど、深層は魔素濃度が他の層よりぐんと高い。
今まで深層に来たことがない星乃が、急にここに飛ばされればそうなるのも必然か。
「……確かに私は魔素中毒を起こしているのかもしれません。しかし魔素中毒は耐えて治るのを待つ方法しかないはずです。私のせいで田中さんを長くここに縛り付けるわけにはいきません」
「いや、治す方法はある」
「そう、方法はありますが……って、え?」
俺の言葉に星乃は首を傾げる。
「俺も会社員時代、ずっと深層にいたせいでしょっちゅう魔素中毒になっていた。だけどその時にある方法に気づいてそれを治すことに成功したんだ」
「そ、そんな方法があるんですか!? いったいどうやって……」
「それは……これだ!」
俺はビジネスバッグの中からキノコや植物、肉などの食材を出す。
それらの見た目は、スーパーに置いてある普通の食材とは違い、光ってたり動いてたり変な形をしたりしている。
「え、これって」
「ダンジョンで取れた食材たちだ。これを作って今から『絶品魔素抜き料理』を作ってやるからな!」
そう、俺は社畜時代こうやって魔素中毒から自力回復していた。
確かにダンジョン内で取れるものは見た目があまり美味しそうじゃない。食べたら逆に魔素中毒になるものもある。だけどちゃんと調理すれば美味しいものも出来るんだ。
星乃も嬉しいのか「わ。わーい……」と喜んでいる。
腕によりをかけて作らなくちゃな。
「せっかくだし生存報告も兼ねて配信をしながら作るか。よし、配信スタート」
配信開始のボタンを押した俺は、意気揚々と料理に望むのだった。
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