第14話 田中、飯を作る
「みなさんこんにちは。田中誠です。今回の配信は引き続き『西新宿断崖ダンジョン』の中からお届けしています」
"あれ? 配信再開した?"
"よかった! 無事だったんですね!"
"田中ァ! 生きとったんかワレェ!"
"なんかしれっと配信始まってて草"
"シャチケン、俺は信じてたぞ!"
"なんかタイトルが『田中お手製迷宮料理講座』になってますけど、何かの間違いですか?"
"奥にゆいちゃんもいるじゃん! 二人とも無事でよかったー"
「現在は場所を移動しまして深層のどこかにいます。ここは魔素濃度が高く、深層に慣れていない星乃さんは魔素中毒一歩手前になってしまいました。みなさんも同じ様な経験があると思います」
"あるわけねえだろ!"
"深層に行けるような探索者、全体の一割もいないんだよなあ……"
"ダンジョンが発生したての時は魔素中毒になる人も多かったけど、今はあんまり聞かないよね"
"人間も進化したんやろなあ"
"覚醒者の割合も増えたしねえ"
"ていうかゆいちゃんどうするの? 魔素中毒って治せないんでしょ?"
"そうね。自然に魔素が排出されるのを待つしかない"
"でも深層じゃ排出するより入る量の方が多いでしょ。駄目じゃん"
"もしかして詰んでる?"
「……確かに普通に休憩していても星乃さんの体調は良くなりません。私も昔は魔素中毒に成った時は死ぬ気で下層に這い戻っていました」
"なんでそんな状況で仕事を続けたのか"
"田中に悲しい過去……"
"魔素中毒になりながら深層のモンスターと一人で戦うのやばすぎる"
"その時の映像ってないのかな?"
"
"ギルド自体も潰れたしね。もしかしたら押収品の中にデータあるかもだけど"
「普通にしていても治らないので……これから料理を作ります。えっとまずは大鍋を用意して、水を沸かします」
"急に料理始まって草"
"このタイトルミスじゃかなったの!?"
"料理配信助かる。ちょうど切らしてた"
"新番組MAKO,Sキッチン"
"意味わからん過ぎる"
"ネタなのかガチなのか分からん"
"田中ァ! 手ェ切るなよ!"
"ビジネスバッグから普通に鍋出てきて草。これも当然のように特殊能力あるんだ"
俺は鍋に水を張り、火をかける。
ちなみに使っている魔素コンロは魔素をエネルギーに特殊な炎を生み出すアイテムだ。
これならダンジョン内で燃料に困らないし、何より酸素を消費しないので洞窟のような閉鎖空間でも酸素が切れることはない。
ダンジョン内で料理するにはうってつけのアイテムだ。
「あの田中さん。私にもお手伝いさせてください」
「大丈夫か? 無理しなくていいぞ」
「少しくらいなら大丈夫です。私も力になりたいんです」
「……分かった。じゃあこれを一口大に切ってくれるか?」
俺はそう言って星乃に食材を手渡す
するとそれを受け取った星乃は「ひぃっ!」と怯えたように声を出す。
「な、なんですかこれ!?」
「ああ、それはドレインマッシュルームっていうキノコだ。知らないか?」
俺が渡したのは黒くて毒々しい見た目をしたキノコだ。
別に毒があるわけじゃないから怖がらなくていいんだけどなあ。
"クッソびびってて草"
"可哀想はかわいい"
"ゆいちゃん涙目でかわいいねえ。ペロペロ"
"このキノコ、見た目だけで言えばモンスターだろ"
"ゆいちゃんキノコが怖い、のカナ? おじさんのキノコは**********"
"通報しました"
"ガチの変態はNG"
「知らないですよぉ! なんですかこのキノコは!」
「このキノコは少し特殊でな。触れた者の魔素を『吸収』してくれるんだ。適量を食べれば魔素中毒の症状を緩和してくれるんだ」
「そ、そんな食材があったんですね……」
星乃は渡したキノコをしげしげと見つめる。
「でもなんでそんなこと知っているんですか? そんな情報、まだ知られていないはずですけど」
「今日配信でも言ったけど、ロクに飯を食う時間と金がなくてダンジョン内の物をよく食べていたんだ。それでこのキノコを食べた時は魔素中毒の症状が出づらかったから分かったってわけだ」
「な、なるほど」
そう話したらなぜか星乃もコメント欄もドン引きしていた。
そんなに俺がおかしいだろうか? 確かに見た目は悪いけど、味はそれほど悪くないんだけどなあ。
「他にも魔素の排出を促してくれる薬草とか、取り込む魔素の量を減らせる野菜もある。これを食べればきっと症状は良くなるはずだ」
「は、ははは……ありがとう、ございます……」
"ゆいちゃんの顔、くっそ引きつってて草なんだ"
"鍋の中の具材、全部見たことない食材で怖すぎる
"闇鍋がかわいいレベル"
"これが噂のダンジョン飯ですか"
"これを食うか死ぬかの二択だったら正直迷う"
"食って死ぬ結末も考えられるからな"
「懐かしいなあ。昔は魔素含有量高いものを食べまくって、中毒になりかけたら魔素を抜く物を食べてを繰り返して無理やり耐性をあげたもんだ」
"ヤバいことカミングアウトしてて草"
"そんだけ魔素を取り込んだらそりゃ強くもなる"
"誰も真似できんぞこんなの"
"やってること毒手と同じやんけ!"
昔のことを思い出しながら、俺は鍋をかき混ぜる。
中には肉も入っているが、これも『ダンジョンボア』というイノシシ型モンスターの肉だ。肉には魔素が結構含まれているけど、ちゃんと処理すれば魔素は抜ける。
他の人は食わないので知らないだろうけど、強い肉の旨味があって絶品なんだ。
「あ、ちなみにこういう光っている系の物は基本魔素がたくさん含まれているので食べないほうがいいです」
俺はルミナスキャップという光るキノコをドローンに見せながら言う。
下手に真似して魔素中毒になられたらマズいからな。
"誰も食べないから安心して下さい"
"光っている物は基本食べないのよ"
"あ、生で食べた"
"この人の胃、どうなってんだよ"
"常識で測るのはもうやめよう……"
「……うん、いい感じに火が通ってきた。後はダンジョンで取れた塩を少し入れて……と」
食材の味がしっかりと出ているので味付けはシンプルに。
調理が完成した俺は、皿をバッグから取り出して、スープをよそう。
「『特製魔素抜きスープ』だ。飲んでくれるか?」
「は、はい……」
星乃はおっかなびっくりしながらも皿を受け取る。
そして数度ためらうような仕草をしながらも、スプーンでそれをすくって口に入れる。
"ああ! 本当に食べた!"
"勇気あるね"
"田中ァ! 俺の分はァ!?"
"出されても食えんだろ"
"でも見た目は意外と美味そうなんだよな……"
星乃は口にしたスープをごくりと飲み干す。
すると驚いたような表情を浮かべる。
「お、おいしい……!」
「そうか。よかった」
"うっそだろ!? 本当に美味しいの!?"
"あの笑顔に嘘はないだろ"
"ゆいちゃんが言うならちょっと食べてみたいかも……"
"ていうかダンジョンの物は食べちゃ駄目っていうのが基本だから、この配信めっちゃ貴重な資料じゃない?"
"そもそもシャチケンの配信は全部貴重な資料になるでしょ"
"深層に行けるような探索者で配信やっている人なんてほとんどいないしな"
"食べてるゆいちゃん可愛すぎる。この笑顔、
"シャチケンいるしお呼びじゃないでしょ"
"でもなんかだんだん美味しそうに見えてきたな……"
"ゆいちゃん美味しそうに食うからなあ"
"俺も腹減ってきたわ"
"おかしいな、ダンジョンのわけわからない飯のはずなのに……"
星乃は美味しそうに二口目、三口目とスープを口に運ぶ
人に作るのは初めてだから少しドキドキしたけど、無事美味しく作れたみたいだ。
「体がぽかぽか温まってきて、それに気持ち悪い感じも減ってきました!」
「魔素が抜けてきたんだな。あんまり食べすぎると今度は抜けすぎるから調節しろよ?」
「はい! 分かりました!」
そう言って星乃はがつがつとスープを頬張り始める。
顔色もどんどん良くなっていく。これなら少し休めば出発できそうだな。
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