040 「変な子」
「――マァ、ここマデ酔ウ子ハ珍シイ……変ナ子ダネ!」
確かに変な子だけどさ……。
ハーッ……! と幸せそうなため息をつくアケノ。
おじさんくさい。
なんかちいさくもかわいくもない。
「店長、変ナ子ト言エバ……モシカシテ」
「ン? アァ! モシヤ!」
突然、店長さんがぽんと手を叩いた。
変な子といえば――――?
「ソノ子、魔女カ?」
「あー……そうです、はい」
変な子といえば魔女。そのロジックで行くと、私も変な子みたいじゃない……。
渋々頷く私に、店長さんたちはヤッパリ、と頷いた。
「実ハネ、来テクレルノ待ッテタンダヨ! 少シ前二ネ、魔女ノオ客サンが『変な子を行かせるからよろしく』ッテ!」
えぇ、アケノのママがそんなことを?
もしかしてこのお店、魔女御用達なのかな。
それにしてもアケノのママ、どんな人なんだろ。意外と真面目な人だったりして。
「へぇー! その魔女のお客さんってどんな人だったんですか?」
ナオ、ナイスっ!
ソウダネェ、と店長さんは顎髭をジョリジョリして。
「金髪デ――」
……っ!? アケノのママも金髪なの?
てっきり黒髪のイメージだったのに……私のママと同じなんだ。
「ノリが良クテ――」
あーそれはわかるかも。
アケノがそうだし……。
「ア、店長! 確か名刺貰ッタ――ホラ!」
「オオ! ソウダッケ……アァコレコレ。エェト、『魔女協会認定魔女、
雨宮……? それも琥珀って――。
「私のママじゃん! というか変な子って私のことじゃんっ!」
「アレ、ソッチの子? オネーチャンも魔女?」
「不本意ながらそうです!!! この度初心者魔女をやらせていただきます雨宮理珠です、よろしくお願いします!」
「オゥオゥ! ヨロシクネ! ガンバッテネ!」
「ガンバッテネ!」
ヤケクソな自己紹介をする私。
ニコニコスマイルでプニプニ握手。
こうして私は、地域のカレー屋さんとスパイシーな交流を交わしたのだった。
「……そういえば、なんで喫茶店みたいな看板なんですか? 最初、本当にカレー屋さんか迷っちゃって……」
「アァ……ウーン……」
ふと帰り際に尋ねてみると、店長さんの歯切れが悪くなった。
もしかして、経営難的な理由……? 良くないこと聞いちゃったかな……。
「あの、部外秘な理由とかでしたら全然大丈夫で――」
「正直カリーヤリ過ギテ飽キタンヨネー」
「ソウソウ、マカナイモ毎日ハ流石二飽キテキテ……」
「サガルお前、そんなコト思ッテタン?」
「……冗談デス」
――――へっ?
「マァイイヤ。ソレデ、今度はコーヒーデモヤッテミヨウカト思ったワケ。ホラ、ダルダルは豆豆って意味ダシ、コーヒー豆デモ行けそうジャナイ?」
「……う、うーん……まぁ」
「ケレド突然コーヒーヤル訳ニモ行かないシ? 取リ敢エズ看板ダケ変えてみたッテ訳ヨ!」
「……看板は一番最後じゃないですか……? 最初はメニュー開発から始めたほうが」
「ナルホド?」
「――でも。カレーとっても美味しかったから、私はこのままお店を続けてほしいです。……個人的な感想ですけど!」
いろいろとおかしなお店だったけど、カレーは間違いなく絶品だった。
お家で食べるカレーとは違う、本格カレー。値段もお手頃だったし、やめちゃうのはもったいないと思う。
「うんうん! 初めて食べたけど、ダルカリー最高でした! それにおじさんたちとってもフレンドリーで楽しかったし!」
ナオも楽しそうに頷く。
店長さんは私たちを見て、パチパチと目を瞬いた。ゆっくり、ニマニマニマ――と口角が上がっていった。
「ヤッパリ魔女ハいい人達ダ! アリガト、カリー続けるヨ!」
うん、それがいいよ!
私は店長さんと再び握手を交わす。
魔女はいい人達……私個人はそんなつもりないけど、他の魔女はエゴの塊だからなぁ……まあいいか。
ボクは魔女じゃないけどね! と言いながら、ナオも握手させられていた。
アケノは……まだフラフラしている。長いな。
「マタキテネー!」
元気な声に見送られて、今度こそ。
魔女修行「創業三十年! インドカリー ダルダルで食事」は終わりを告げたのでありましたっ。
「な、なにィーッ!? 今まで食べていた四川風ミルフィーユカリーは……?」
「どんな酔い方してるのよ……もう食べ終わったでしょ」
「……ふむ! ということは、知らず知らずのうちに山椒の辛さも克服したということじゃな? これでワシも死角なしッ!!!」
「その馬鹿みたいなポジティブさ、私は正直羨ましいよ……」
(――――――――Lesson 7に続く)
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