036 「ゼミって魔女講座あるの」
「――アケノって、もう修行は終わってるの?」
おしぼりの袋をぴりりと破きながら尋ねてみる。
思えば基礎魔法の時も、すでに通った道だとばかりアドバイスをくれたし、今回だってそんな感じだ。
まぁ、アケノの方は清掃ボランティアだったらしいけど。たぶん枯れ葉に火炎放射とかしたんだろう。
「うむ、皇家は幼少の頃から修行を始めるからの。今、理珠がこなしているところは――そうじゃな、小学生くらいの時に終わっておるなッ!」
「小学生!? 私とそんなに差があるの!?」
さすが魔女の名家……。
そんなんじゃいつまで経っても追いつけないよ……なんて唖然としていたら、予習とかできないの? とナオが口を挟む。
「……ほら、勉強と同じでさ。前もって予習しておけば、こなすスピードも早くなるんじゃないかな? 魔女修行ってそういうの駄目なの?」
「出来なくは無いの。修行は各々に合った時期に行うのが一番なのじゃが、先取りする方法も無くはない。そういうサービスもあるにはある」
サービス?
ちょっと気になる。
私は早く一人前の、優秀な魔女になりたいんだ!
「それ、なんて名前?」
「うむ、真研ゼミと言ってじゃな――」
「えっゼミって魔女講座あるの!?」
ナオががたんとテーブルを揺らした。
無理もない。私もひっくり返りそうになったんだから。
初耳すぎる……というかにわかには信じられないよ!
顔を見合わせる私とナオに、アケノは首を傾げて言った。
「……おぬしら――理珠はともかく魔女でないナオには馴染みがないと思うのじゃが。何を驚いておるんじゃ?」
「え? いやゼミって、結構やってる子いない? ボクはやってないけど……」
「ふむ。どうやら名前が似ておるサービスがあるようじゃな。ワシが言っておる真研ゼミは魔女界隈だけのサービスじゃし、そもそもゼミとは略さん。皆はセミと呼んでおる」
ゼミだとゼミナールになってしまうじゃろ、とアケノ。
ゼミナール、じゃない……?
「え、じゃあなんなの? どういうサービス?」
「うむ、月に一度、訓練された蝉が派遣されてきて、その鳴き声のサブリミナル効果で脳の未知領域に魔法の知識を刻み込み――――」
「なにそれこわい」
「セミってまんま蝉のことなの!?」
思わず声を上げる私たち。
アケノは構わず続ける。
「真研ゼミ――すなわち、『真理を研究するセミの集い』。彼らにもいろいろ派閥があるが、そのうちの一派と魔女協会が手を組んでそういうサービスをやっておる。まぁワシに言わせれば必要ないサービスじゃ」
「彼らって……セミにもコミュニティがあるんだ? なんか面白いねぇ」
「ナオはなんでさらっと受け入れられるの……というか! 魔女協会なんて初耳なんだけど!?」
しかも魔女として割と重要そうな組織なんじゃ。なんで今まで出てこなかった!?
口をぱくぱくさせる私に、まぁ理珠はまだまだ駆け出しじゃから――と慰めになっていない言葉をくれるアケノ。
ぽん、と肩に手を置かれる。
「なんじゃ、これからゆっくり学べばよい。理珠にはそれがちょうどよいわ」
「…………まぁね」
私はその手をさり気なくどけた。
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