035 「アノ時のナゴリ」
さっきとは違う店員さんがすたすたと来て、言った。
「ゴ注文ハ?」
――まだメニューも見てないんだけど?
アケノがラミネート加工されたメニューを開く。
もうちょっと待ってください、なんて言葉で場を濁しつつ、私たちは手元を覗き込む。
「すごいっ、ナンおかわり自由だって! ボクはナンにするっ!」
「その前にカレーを決めるのじゃ。カレーは辛いほど美味いからの! どれどれ……」
「私は一番普通のがいいな……すみません、おすすめは何ですか?」
私が尋ねると、店員さんはムフ、と笑った。
「『ナンですか』……ムフフ……ソノ通り、ナンですヨ!」
「……いやボケたわけじゃないです」
「ソウナノ? オススメはダルカリーダネ」
だるかりー?
豆カレーのことじゃ、とアケノが教えてくれた。
豆か……ナッツとかじゃなければいいんだけど。
「……じゃあ、スタンダードなのは」
「ダルカリーダネ」
「一番人気なのは?」
「………………ダルカリーダネ」
「……もう一つ、質問いいk」
「へぇ、全部ダルカリーっていうのなんだっ!」
待ってナオ、今の間怪しすぎるでしょう!
というか私がツッコもうとしたのに!
キラキラした瞳で店員さんを見つめるナオ。
ウ、と口ごもる店主さん……。
ため息をついて話し出す。
「……ダッテ、ダルカリー売レナインダモン」
「やっぱり嘘じゃん!」
「みんなチキンばっか頼ム。ダル自信アルノニ。むしろウチの看板メニューナノニ」
あ、店名のダルダルってそういう意味なのか。
でも確かにチキンカレーのほうが馴染みあるしなぁ……。
ふぅん、とナオが首を傾げた。
「……店員さん、ダルカリーっておいしい?」
「モチモチ。ガネーシャの鼻も落チル」
「ほっぺが落ちるほどってこと? じゃあボクはダルカリーにする! あとナンで!」
「本当カ、マカセロ! ソッチノオネーチャンはドウスル?」
わ、私っ!?
ええとええと……じゃあチキンカレーとナンで。
「ノリ悪いオネーチャンダネ!」
イラッ。
いいんです、私は失敗したくないんですー。
そういえばアケノは……というと、まだメニューを見ていた。
慣れてそうな割に長いな……。
「……のう、この店で一番辛いカレーは何じゃ?」
「ダルダルのカリーは全部同ジピリ辛ダヨ! 前ニメチャメチャ辛くシタラお客サン来ナクナッタカラ!」
あン時辞メタ、ガネスは元気カネェ……としみじみする店員さん。
――――ん? 辞めたってそれ、クビにされたんじゃ。
「そう……辛さでは選べぬか……」
「ウン? オネーチャン、辛いノスキナノ?」
「うむ。辛ければ辛いほど美味いのじゃッ!」
「ジャア、シークレットカリーはドウ? メニューにはないケド、今でも作レル。アノ時のナゴリ」
「ほう、シークレットと。辛さはどれくらいじゃ?」
アケノの問いに、ムフフと含み笑いをする店員さん。
スウゥと息を吸って、ホゥと吐いて。
「――――シヴァの怒りクライ」
「シヴァの怒りッ! よい、それにするのじゃ! ――あとワシはライスで」
「マイド! 待っテテネェ……逃ゲチャダメダヨ」
いや怖……。
ねぇアケノ大丈夫なの、と聞いてみたけど……あぁ駄目だ目がキラキラしてる。破壊神の怒り級とは期待できるの! とか聞こえてくる。
……え、唐辛子ならいくら辛くても大丈夫? すごい胃だな。
ナオもなんかそわそわしてるし、緊張してるのは私だけだった。
……そういえばなんで喫茶店みたいな看板だったんだろ。内装もメニューもカレー屋さんなのに。
後で聞いてみようかな。
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