037 「違う、そこじゃない」
「ハイ、ダルカリー•ナン」
「はーいボク!」
トレーに乗せられ、一人ずつカレーが運ばれてきた。注文順みたいで、最初はナオのやつ。
銅色の小さなボウルにたっぷり、ほわほわ湯気立つこげ茶のルゥ。
そしてけっこう大きなナンが、ウィローで編まれたかごにどーんと乗っかっている。
ぱあ、とナオが破顔した。
それからそそくさとスマホを取り出した、その横で――。
「ハイ、チキンカリー•ナン」
「はい、私ですっ」
とんとん、と置かれる私のぶん。
ルゥはナオのよりも明るい色。
相変わらず大きなナン。
匂いとか、ママのカレーとはぜんぜん違う。
ずっと濃いのに、どこか爽やか?
おいしそう……。
「ハイ、シークレット。四川風ミルフィーユカリー•ライス」
「うむ、ワシ………………」
ぴた、と固まる私たち。
一瞬遅れて、パシャイ……とナオのシャッター音がやけに大きく響く。
……聞き間違いかな。すごい変な名前が聞こえた気がする。
「……ワシのこれ、もう一度名前を教えてくれんか?」
「四川風ミルフィーユカリー!」
「四川風……じゃと? ワシ山椒の辛さだけは苦手なんじゃがッ……」
「――――アケノ違う、そこじゃない」
うわぁ、と覗き込んだナオが引いていた。
色が、色がやばい。
赤黒くて、カレーというより麻婆豆腐みたい……。
それがぐつぐつ揺れていて、もう見るだけで――ヒィィ……。
「……まあ良い。四川風はともかく、ミルフィーユ要素はどこなんじゃ」
「あ! 辛さが層みたいに重なってるってことじゃない?」
「――――――ソユコト!」
ナオの言葉に親指を上げる店員さん。
……本当か? それならもっとインドっぽい名前はなかったの? 本格どころかゲテモノっぽくなっちゃってるけど……?
「ソレジャ、ゴユックリー」
たったった、と遠ざかっていく足音。
後ろ姿を見送るアケノ、とりあえずお水を飲むナオと私。
ちびちび。
「……ね、食べようよ?」
漂うスパイスに耐えきれなくなったナオの一声で、ようやく私たちはスプーンを取った。
「うま……!」
美味しかった。
……いやほんとに、すごく美味しかった。
カレーではあるんだけど、私の知ってるカレーじゃない。
さらさらしてて、けれど濃厚。どんどんと入った鶏肉の存在感がすごい……というか目に見える具はそれくらいだ。
他にもたくさん入ってるんだろうけど、多分ルゥに全て溶け込んでいる。
そうでないとこの味は出ないね、うん。
思わず美食家みたいな感想を抱いてしまうほど、美味しいカレー。さすが本格カレー屋さんだ!
ナンはほんのり甘くて、少し香ばしい。これだけでもおやつになりそうだけど、やっぱり私にはちょっと大きいかな……。
でも食べきる自信はある。
なぜなら目の前にはとっておきのおかずがあるから。
「――美味しいねぇ! すごく美味しい!」
ふぃー!
ナオの満面ハッピースマイル見ながら食べるナンうま~!!!
幸せそうにナンをちぎってはルゥに付け、それを食べては美味しいと顔をほころばせる。
――尊い。はぁぁ……。
私は初めて、ナオのことを可愛いと思った。
ただ、幸せそうなナオとは正反対の顔もある。
「ひゅぅ……さんしょ、ひぇ……」
それは山椒にやられているアケノ……。
あれ、こっちもなんか可愛いな。
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